それでもの「突き上げ」?

つい半月前まで監督交代は全く考えていなかった、しかもロシアW杯まであと2ヶ月、実質的な準備期間は3週間しかないという「どう見ても短い」このタイミングで、それでも監督交代を決断させたのは何でしょう?

具体的な人名は避けていましたが、冒頭コメントの中で田嶋会長は「3月27日のウクライナ戦の後、選手との信頼関係やコミュニケーションが十分に取れるような状況でなくなった」「監督とチームの信頼関係ができない可能性が3月のベルギー遠征で見えた」という事は明言しました。恐らくこれも本当でしょう。それ以外にこの急変を説明できません。

9日は16時から本郷のJFAハウスで緊急記者会見をやった後、18時から上野の東京芸術大学で連携協定の調印式がありました。その後にあった田嶋会長の囲み取材で、最後に質問ができたのは実は私でした。W杯直前を除くと最後のテストマッチになる2試合で田嶋さんは何を期待されていたのですか?そこでの「クライテリア」(優先順位)は何だったのですか?という問いかけに「勝敗にこだわったわけではない、もちろん勝っていれば監督への求心力が高まったかもしれないが」と前置きした上で改めて、「ウクライナ戦の後、監督と選手の間のコミュニケーションが取れなくなって、これ以上継続することが難しくなった」と田嶋会長。陰謀論を封じる「これは純粋に勝つための判断であって、マーケティングの問題ではないですよね?」「全くその通りです」という応答に続いての返答なので、これも本当なのでしょう。

マスメディアの記者だとこうは書きづらいでしょうが、私は「選手ってそんなに偉いの?」と思ってしまいます。最終的に試合をするのはもちろん選手ですし、個別にプレースキルを上げるのは彼らにかかっていますが、それを組み合わせ、チームとして作り上げるのはその専門家である監督の仕事です。所属選手の中からしかメンバーを選べないクラブではなく、選手選考の段階から自分のスタイルをより強く打ち出すことができる代表監督ならなおさらでしょう。

まして、ハリルホジッチ氏はJFAがその実績を買ったように、個人の能力や選手層の面では苦戦が予想されていたアルジェリアを同国初のベスト16に導き、さらに決勝トーナメントでは優勝したドイツを相手に延長戦まで戦い抜いてブラジルW杯で強い印象を残したプロフェッショナルです。

「FIFA.com」の仕事として全部見たロシアW杯予選のホームゲームで、間違いなく2017年8月のオーストラリア戦は会心の出来でした。一対一のデュエルでの勝利、素早い縦の攻撃、積極的なシュート意識、斬新な若手選手の起用。彼の理想とするサッカーを「最終回答」として見せて、日本はロシアへの切符をつかみました。

同時に、この試合はオーストラリアの自滅でもありました。あのカイザースラウテルンの悪夢を含め、今まで日本を圧倒してきたフィジカル勝負を封印して中盤での細かいパス回しを重視するアンジェ・ポステコグルー監督の「俺たちサッカー」は、これを長年鍛え上げてきた日本サッカーには対抗できませんでした。ここではっきりと決着を付けた日本が、まさか7ヶ月後に破った方の後追いをするとは。

それでも田嶋会長は監督交代に踏み切りました。Qolyでも記事になっていますが、W杯直前の監督交代でベスト16に進んだのは1994年のサウジアラビア以来ないという無謀さを承知の上で。そこまで彼を追い込んだのは、「これ以上はこの監督と戦えない」という明確な意思表示、俗に言えば「突き上げ」が選手から出たという事でしょう。それも、田嶋会長から契約解除を直伝されて怒り混乱したというハリルホジッチ監督の意識の外で。このチームマネジメント経験のない選手達がこだわる「自分たちのスタイル」がハリルホジッチ流よりも世界に通用する根拠は見えません。

なので、このレポートでは「指導体制の破壊」が手段を超えて自己目的化したという評価と、それは技術委員会での論理的批評よりも選手からの嫌悪が優先されたのだろうという推測から『衝動』というタイトルを付けています。

※私の隣の席で取材していた芸人、プチ鹿島氏のツイート。ヴァーチャルスタジアムは超満員。