ドイツ3部リーグの試合で、感動の復活劇が繰り広げられたようだ。

物語の主役は、シュトゥットガーター・キッカーズに所属するダニエル・エンゲルブレヒト。1990年11月生まれのエンゲルブレヒトは24歳のFWで、レヴァークーゼンのユースチームにも在籍したタレントである。

エンゲルブレヒトはアレマニア・アーヘンやボーフムのセカンドチームでプレーすると、2012-13シーズンにボーフムでトップチームデビュー。しかし、出場機会もまともに与えられず、その冬にドイツ3部のシュトゥットガーター・キッカーズへとローン移籍しており、翌2013-14シーズンには完全移籍で同チームに加入した。

ようやくプロとしての挑戦が始まろうとしていたその時、エンゲルブレヒトに悲劇が襲う。プレシーズンマッチのRWエルフルト戦を戦っていた2013年7月21日、エンゲルブレヒトは突如ピッチで心肺停止となりピッチに倒れたのだ。医療スタッフが蘇生を試みなんとか命こそ取り留めたものの、アスリートにとって心臓の病は一大事。翌年には心筋炎と不整脈も併発し、計4度の心臓手術に挑んだのだという。

エンゲルブレヒトの胸には人工補助機器が装着された。無論、不整脈を持つ心臓へ電気刺激を与えるためであるが、驚くことにエンゲルブレヒトはプロサッカー選手として復帰することを諦めなかった。

懸命なリハビリが実り、復帰のチャンスが巡ってきた。11月22日に行われた第18節。17ヵ月ぶりに戦う実戦の相手は、奇しくも自身が心臓発作で倒れた際に対戦したRWエルフルトだった。1-1で迎えたこの試合、エンゲルブレヒトは83分から途中出場し、見事プロ選手としてのカムバックを果たす。7分間だけの出場にとどまったが、心臓病を乗り越えた時点で彼の家族にとっては十分だったに違いない。

しかし、エンゲルブレヒトの奇跡はここでは終わらなかった。

12月6日に行われた第20節のヴェーヘン・ヴィースバーデン戦、再び出場の機会を得る。1-1の状態で83分に投入されるのは、復帰戦と全く同じ。そして、FWであるエンゲルブレヒトに課せられた任務も同様であった。

試合はそのまま1-1で90分へ。このまま試合が終わる―、誰もがそう思った時だった。

ベサル・ハリミからのスルーパスにエンゲルブレヒトがフリーとなり、これをシュート。キックは相手選手に当たるがこれがゴールへと入り、起死回生の逆転ゴールが生まれた。

ゴールを決めた瞬間、エンゲルブレヒトはおもむろにユニフォームを脱いだ。そして、その胸に装着されていたものに世界は驚いた。

そう、エンゲルブレヒトは人口補助機器を装着したままピッチを走り回ってたのだ。

にわかに信じがたい話だが、これはドイツ3部で生まれた事実。人工補助機器を装着してゴールしたプロサッカー選手はエンゲルブレヒトが史上初であり、ゴールをあげ仲間から祝福されたエンゲルブレヒトの目からは涙が流れていたという。たゆまぬ努力と人一倍強い精神力がもたらした偉業であることは言うまでもない。

ユニフォームを脱いだエンゲルブレヒトのシャツには、"Nichts ist unmöglich"というドイツ語が記されていた。"Impossible is nothing(不可能はない)"―、悲劇を奇跡に変えた男からのあまりにも力強いメッセージであった。

※ちなみに

このエンゲルブレヒト、続く第22節ゾネンホフ・グロスパッハ戦でも途中出場からゴールをあげている。

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