アンリのベストゴールの一つと言われるマンチェスター・ユナイテッド戦での振り返りざまボレー。
相手を背負いながらこんなタイミングで打たれては、フランス代表GKファビアン・バルテズもお手上げだ。
忘れてはいけない、バックヒールでのゴラッソ!
この体勢から決められるのはアンリとクリスティアーノ・ロナウド、イブラヒモヴィッチぐらいではないだろうか。
そして、ここまでなら「得点感覚に優れたストライカー」でくくることもできるが、アンリが一味違ったのはそのアシスト能力の高さである。彼がアーセナル時代に記録したという全106アシストをドドンと紹介。
アーセナルらしい鮮やかなチームプレーの中でのラストパスに加え、恐るべきスピードとテクニック、そしてサッカーセンスを生かしたアシストの数々。マンチェスター・ユナイテッドのルート・ファン・ニステルローイと得点王を争った2002-03シーズンのプレミアリーグでは、24ゴール23アシストという驚異の数字を残している。(得点王の栄冠は25ゴールを決めたファン・ニステルローイに)
「軸足パス」を試合中にこれだけやった選手も他にいないはず。
こうした彼のプレーを振り返りつつ考える、アンリが「ファンタジスタ」ではなかった理由。その大部分はやはり、彼がバッジョのイメージと重ならない選手だったからであろう。
怪我や監督との確執など、様々な壁が現役時代のバッジョの前に立ちはだかったが、そのたびに彼は復活し、素晴らしいプレーでサッカーファンを魅了した。そうしたバッジョのキャリアを知る人ほど「ファンタジスタ」に独特の思い入れがあり、“審査基準”にも強いこだわりを持っているように感じられる。
とはいえ、アンリの持っていた創造性は類まれなものであり、我々を存分に楽しませてくれた選手の一人であることに変わりはない。フランスが生んだ名フットボーラーは偉大なキャリアとともに、そのスマートかつ遊び心あふれるプレーが今後も長く語り継がれていくことだろう。