・ザンビアの英雄、エルヴェ・ルナール

その男とは、当時ザンビア代表監督を務めていたエルヴェ・ルナール氏だ。

1968年に生まれたエルヴェ・ルナールは、名門と名高いカンヌの下部組織に入団し、選手として研鑽を積んだ経験を持つ。

ところが、当時の同僚であったマルセル・デサイーやディディエ・デシャンなどの名選手が才能を開花させていったのに対し、ルナールはプロに上がることも出来ず放出され、アマチュアとしてキャリアを続けることになる。

ルナールは当時の『Reuters』の取材に対してこう答えている。

『カンヌ時代は私の頂点だったね。でもデサイーやデシャンなどのトップ選手と一緒にプレーして、すぐに自分はヘタなんだと気付かされた。結局平均的な三流の選手に落ち着いたよ』

『アマチュア時代の事は良く覚えている。毎朝3時に起きて、ビル掃除をしていた。辛かったけど、その経験は今とても役に立っているよ』

ルナールは30歳で指導者に転身。アフリカやアジアで豊かな経験を持つクロード・ルロワ監督のアシスタントとして修行を積み、2008年にザンビアの指揮官になった。

彼が最初に率いた2010年アフリカネイションズカップでの戦い振りも、筆者はよく覚えている。その当時も、献身的で守備意識が高く、切り替えが速く、プレスからのカウンターでスピードを生かしたサッカーを見せた。

当時のレポートにはこう書かれている――『計算された強引さだ』 『ザンビアに勝たせてやりたい。とてもいい試合をしている』

しかし、ザンビアは準々決勝でPK戦の末にナイジェリアに敗れ、大会を去った。

ルナールはその2010年大会の後一度職を離れたが、2011年10月に復帰。それからわずか3ヶ月後、ザンビアサッカーの歴史上初めてのビッグタイトル獲得に導いたのである。