ペップはバイエルンに就任しても、もはや自身の哲学とも化した「ポゼッションと連動性」をチームに浸透させようとした。一人一人がまんべんなく個人能力の高いチームであるため、一見あの数年前のバルセロナを彷彿とさせるような「ポゼッションと連動性」のフットボールを実践できている様に見えたし、実際そのフットボールで無敗記録と史上最速優勝を刻み込んでもいる。
しかしバルセロナ初年度で彼が全てを勝ち取った時の様に、一年の休みからの監督業復帰年で再びフットボール界を牛耳る、とまで至っている印象はない。時代を握っていたバルセロナ監督時でさえ運によって苦い思いをした事もあったかもしれないが、今回マドリーに連敗を喫しトータルスコア0-5で惨敗したことについて、運の悪さを嘆くにはどうしても無理がある。
「ポゼッションと連動性」のトレンドが「プレッシングとトランジション」にとって代わられつつある今、「ポゼッションと連動性」の対応策を知り尽くし「プレッシングとトランジション」に適した選手達が揃うマドリーを相手に、バルセロナほどペップの哲学に適した選手の揃っていないバイエルンで一年目にして「ポゼッションと連動性」の復興を成すのはさすがのペップでも難しかったようだ。
効果的なプレッシングによりバイエルンのポゼッションに安定性を欠かせたマドリーは多くの決定機を作り出し、最終的にカウンターから2点、持ち前のセットプレーの強みでバイエルン相手に3点を決めている。守備陣に関してはダニエル・カルヴァハルとファビオ・コエントランの両サイドバックに相手のサイド攻撃の精度を欠かせ、ペペとラモスのCBコンビや中盤のシャビ・アロンソとルカ・モドリッチという守備力の高い選手を中心に中央のエリアを完全に封じきった。攻撃面ではサイドバックの攻め上がりと各選手のパスを繋げる技術の高さ、強力3トップのスピーディーな攻撃を最大限に活かしていた。
2nd legでは2トップがプレッシングからボランチの後ろのコースをケアする興味深い形を見せ、それにより安定性を欠いたバイエルンのポゼッションの質・効率性は著しく低下し、終始決定機らしい決定機を作り出す事ができなかった。
このCL準決勝でのマドリーの圧勝劇も、その戦術に適した選手達が揃っていたからこそだ。あるフットボールが「トレンド」となる時、それはそのフットボールと選手が適応して初めて生み出されるものだという事も忘れてはいけない。
今回のバイエルン対マドリーのCL準決勝は私に今季開幕前のコンフェデレーションズカップ決勝を思い出させ、やはり「ポゼッションと連動性」に代わり、「プレッシングとトランジション」がトレンドとなってきているのかと改めて私に感じさせた。バイエルンでのペップのフットボールが、同クラブの大御所フランツ・ベッケンバウアー氏に批判を受けた様に、世界的にも以前ほど「ポゼッションが正義」という様な風潮も感じられなくなってきた。
昨季のドルトムントとバイエルン、コンフェデでのブラジル代表、そして今季のマドリーやアトレティコの様に、「プレッシングとトランジション」のフットボールを極めたチームが勝利を収めてきている最近のフットボール界。そんな現状において、運動量の重要性が高まってきている事などはもはや言うまでもないだろう。
実力を示し続けながら進化を続け、また人気も集め、「プレッシングとトランジション」はこのまま「トレンド」として一時代を築くフットボールスタイルとなるのだろうか。 それとも今回、トレンドとなりつつあるフットボールを施行するチームに連敗を喫し、またも新たな壁に直面した「ポゼッションと連動性」のフットボールが、W杯を迎えるスペイン代表、ペップのバイエルン、バルセロナ、またアーセナルなどを筆頭にして更なる進化を見せて盛り返すのか。 はたまた別のスタイルが実力を見せ始めるのか。今はまだ何もわからない。
しかし現時点において、フットボールに「トレンド」というものが存在するなら、それは「プレッシングとトランジション」のフットボールなのではないか。私はそう思うのである。
筆者名:イシマッティ
好きな選手だったデイヴィット・ベッカムと入れ代わりにマンチェスターU.に入団したクリスティアーノ・ロナウドのプレーに衝撃を覚えて以来、長らく大のCR7ファンを続けているユナイテッドファン出身、現マドリディスタ。 生涯のマドリー愛を誓っています。 好みはありますが、フットボールを評価する際には客観視を極める事にトライしています。 ブログにてフットボールを隅々まで楽しむ為の持論を展開中。
ツイッター:
@7FMA7
【厳選Qoly】日本代表の2024年が終了…複数回招集されながら「出場ゼロ」だった5名