「選手たちに言おうと思っているのは、このチームの良いところが出るのは、インテンシティーの回転数が高い時だということ。たとえばヨーロッパのサッカーに目を向けてみてもバイエルン、ドルトムント、ユベントス、マンチェスターは何が共通しているかというと、そのインテンシティー、まさにそういったものを持っている。日本代表としても重点的にやっていくと。そのインテンシティーを出すためにはやはり集中であったり、気迫といったものが必要なので、そういったものを選手に呼びかける。ヨーロッパのサッカーを観ても、個の力が強くてもこのインテンシティーが欠けていればなかなか結果を出せていないという状況がある。何が言いたいかというと、技術力では我々はアジアで一番と自負しているわけですけど、インテンシティーが欠けてしまうと、良い方向に進まないということです」

日本代表とブルガリアの親善試合におけるメンバーを発表した際に、ザッケローニはこのような発言をしている。この発言を受けて、ブルガリア戦の最中に日本代表の実況と解説が凄まじい勢いで「インテンシティ」を連発した。恐らく多くのサッカーファンがそれを聞き、「インテンシティ」というものが結局どういうものなのかという疑問を覚えたことだろう。本コラムでは、その「インテンシティ」という言葉の意味について探ると共に、ザッケローニがこの言葉にどういう意味を含ませていたのか考察していくことにしよう。

そもそもIntensityというのは英語である。英語で調べてみた結果、この「強度」という意味を持つIntensityという単語は物理学の世界において頻繁に使われているという結果に突き当たった。波形を描くような力の変化を計測していく上で、ある一定の期間における平均値や変化の幅を表す際に使われる言葉のようだ。

更に、Intensityという単語や、同じ意味を指すイタリア語であるIntensitaという単語を頻繁に見かける分野としては、トレーニング科学の分野である。特にIntensityという単語は、「オーバーロードトレーニング」という「日常の活動レベルより多い負荷を身体にかけるようなトレーニング」に関する論文などに頻繁に登場してくるものだ。どの程度強い負荷をかけてトレーニングすべきなのか、という負荷の強度を表す際にこの単語が使われることが多い。

この2分野での使用例を見ながら推測していくと、フットボールの世界での「インテンシティ」という単語は、短時間での運動量やスプリント回数などの平均値や変化の幅、回数などによってかかってくる負荷の大きさを表している言葉のように推測出来る。簡単な言葉でまとめてしまえば、「ダッシュを繰り返し、フィジカルコンタクトを繰り返すことが出来る能力」と言えるだろう。このザッケローニの発言は、ドイツ勢同士がCL決勝を行った事とも大きく関連していることは間違いない。集中力を保ち、短時間での激しいプレッシングを連発することによって相手を圧倒していくようなサッカーをこなしたバイエルンとドルトムントがCLにおいて大きな成果を残していったことから、世界中のフットボールメディアが記事の見出しに使いたがる言葉を「ポゼッション」から「集中力」、そして「インテンシティ」に大きく舵を切った。

しかし、ここで考えなくてはならない問題が浮上する。サッカーにおいて「インテンシティ」が重要なことは今さら取り上げる必要はない事実である。しっかりと走り、局面で激しいプレーをしていく集中力は、最早現代フットボールでは不可欠なものになっているからだ。ここでもう一度ザッケローニの発言に戻ってみよう。

「何が言いたいかというと、技術力では我々はアジアで一番と自負しているわけですけど、インテンシティーが欠けてしまうと、良い方向に進まないということです」

シンプルに言ってしまえば、ザッケローニが発言に込めたメッセージは「技術に溺れずにハードワークをこなし続けなければ上のレベルには進めない」というものなのではないか。そんな単純な発言に振り回されてしまうのは皮肉なもので、新しい単語を殊更に強調したがるサッカーメディアの特徴を良く表しているようにも感じられる。

さて、ここで一歩踏み込んで考えてみよう。ボルシア・ドルトムントとバイエルン・ミュンヘンは、どうして「インテンシティ」を生かしていくことが出来たのだろうか。もちろん90分間走りきれる体力や筋持久力、というものもある。しかし、「集中力を高めて勝負をかけることが出来る場面をチーム全員に浸透させる」ことが最も大きな要因になったことは間違いない。例えばバイエルン・ミュンヘンは、セットプレーの場面を最大限に生かしてFCバルセロナを葬り去った。彼らは「運動量」や「フィジカル」を最大限に生かす場面を作り出す術を知っていたのだ。そういった視点から見てみると、「インテンシティ」を生かすようなチームを構築していく必要性が高まっていると言えるのではないだろうか。

もし、ザッケローニが「日本代表が上手くいかない」理由を「インテンシティ」だけに求めることになった場合、そこには大きなリスクが存在しているように思えてならない。それが杞憂に過ぎないことを祈りながら、今回は筆を置くことにしよう。


 

筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
ツイッター: @yuukikouhei

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想などはこちらまで(@yuukikouhei)お寄せください。

【厳選Qoly】日本代表の2024年が終了…複数回招集されながら「出場ゼロ」だった5名

大谷翔平より稼ぐ5人のサッカー選手