「全ての策はローマに通ず、幸運な愚者か周到な賢者か」、新指揮官アウレリオ・アンドレアッツォーリを考察する。

スタディオ・オリンピコ・ディ・ローマ。ローマ帝国が隆盛を極めた時代の円形闘技場、コロッセウムに通じるところを感じざるを得ない古都ローマのスタジアムで王者ユヴェントスとローマが邂逅することになった。遥か昔、このオリンピコではキリスト教徒が殉教したと伝えられており、コロッセウムを聖地として扱うキリスト教徒も決して少なくない。ローマでは殉教者ズデネク・ゼーマンがその自らの理論と現実のギャップに苦しみながらローマを去り、暫定指揮官として抜擢されたのは元々「0トップ」の創始者の一人として有名なルチアーノ・スパレッティの右腕と称されたアウレリオ・アンドレアッツォーリであった。

その新指揮官、アンドレアッツォーリがホームで王者相手に見せた大胆な戦術変更を中心にこの指揮官について考察していきたい。この試合のスターティングメンバーは下の図のようになっていた。

ローマはズデネク・ゼーマンが好んだサイド偏重の4-3-3ではなく、3バックを採用。1トップの下にラメラとトッティというOHを2人起用する中央重視の3-5-2-1を選択。この変化が「ユヴェントス対策として考えられたものだった」のか、単純に「監督の指向が反映されているものだった」のかは2試合しかこなしていない現在推測することは難しいが、この戦術がユヴェントスに対して完璧に嵌っていくことになる。

序盤に仕掛けを見せたのはユヴェントス。リヒトシュタイナー、ビダルで高い位置からプレッシャーをかけてローマの組み立てを阻害すると、バルザーリを高い位置に押し上げることによってピルロをサポートしつつ高い位置にボールを押し上げていった。ピルロのマークを軽減させながら、ユヴェントスは上手く隙を探していくような立ち上がりに。かつ、フィオレンティーナを粉砕した時と同様に高い位置からビダルがCBにプレッシングをかけることによって試合の主導権を握っていく。

ローマの守り方は、かなりピアニッチとデロッシの2人が両サイドにまで流れてポグバやビダルだけでなくカットインしてくるリヒトシュタイナーやアサモアを請け負っていくスタイル。ユヴェントスはそれを利用しながら二人を上手くサイドに引き出して、手薄になった中央を使っていこうとしたが、それがローマの仕掛けた罠だった。時に献身的にラメラがボランチに下がり、両WBをかなり低い位置にまで下げたことによってしっかりと後ろに枚数を揃えた上でCBマルキーニョスやピリスがその高い身体能力やスピードを生かしてボール奪取を狙うことによって入ってきた縦パスを何度となくカットしていった。

更に、そこからのカウンターも機能。満身創痍のユヴェントスはどうしても中盤の切り替えが遅れ、圧倒的なパス能力を持つ一方守備を苦手とするピルロの周辺をトッティとラメラのダブルトップ下で狙っていくことによってオズバルド、トッティ、ラメラの3人でカウンターを何本も見せていった。さらにユヴェントスの前線からのプレッシングが甘くなるにつれてデ・ロッシがしっかりと左右にさばきながらゲームを構築していった。

特にラメラがピルロの周辺でボールを受けると、そこから図のようにスピードに乗ってピルロを振り切っていくようにドリブルしていくことによって3バックに対して3人のアタッカーが対するような形を増やしていった。

筆者にとっては、中央でプレーするラメラはミランでのカカを思い出させた。王子フランチェスコ・トッティがセットプレーのこぼれ球から値千金の先制点をゴールに突き刺した後も、前線に3人を残したままユヴェントスのDFラインを牽制することによって思い切った攻撃をなかなかさせないままゲームをクローズ。アネルカを投入して反撃に出たユヴェントスに対しても、そこまで決定的なチャンスは作らせなかった。

一試合で判断することは難しいものの、ローマが仕掛けた策はストラマッチョーニが仕掛けていた策に近かった。フアン・ジェススがこなしていた役割をマルキーニョスがこなしていたような感じである。5バックに近い形で守り、ボランチがカバーしきれないスペースをオフェンシブハーフとセンターバックに請け負わせるこのシステムは確かに中央での崩しに力を入れてくる傾向が強い現在のセリエAでは効果的だ。しかし、このシステム自体は強豪に対する「仕方なし」の守り方である部分が強く、ユヴェントスの指揮官アントニオ・コンテが言うように「左サイドのアサモアがアフリカネーションズ・カップに帯同していたせいで練習が足りておらず明らかにトップフォームではなかった」と言うのは間違いない。本調子のアサモア、リヒトシュタイナーの両サイドが機能していた場合はこういった展開にはならなかったはずである。

だが一方、そのカウンター構築は流石ルチアーノ・スパレッティの愛弟子という雰囲気を受けた。特に「ローマのカカ」というべく存在感を中央で放つエリック・ラメラと、ローマの心臓であり象徴である生きる伝説フランチェスコ・トッティを近い位置に置いたことは素晴らしい選択だったように思えた。こういったカウンターを見ると、アウレリオ・アンドレアッツォーリは周到に準備を進めていたことは間違いないだろう。今回のローマの勝利は守備面での幸運と攻撃面の必然によって導かれた、と私は考察する。 セルティック遠征とアウェイでのチャンピオンズリーグによって満身創痍のユヴェントスは、それでも走ることをやめようとしなかった。何度カウンターの危機に晒されようと、彼らはホームの声援に応えようと攻める姿勢を捨てようとはしなかった。そんなユヴェントスの姿に、イタリア王者の誇りも見ることが出来た。ユヴェントスはこれからもセリエをリードしている存在であり続けることだろう。そんなユヴェントスに勝利したローマの指揮官アウレリオ・アンドレアッツォーリが本当に賢者であった場合、その若武者たちを率いた彼がもしかしたら王者ユヴェントスを追う筆頭候補の一つとして先頭に躍り出るのかもしれない。「lupacchiotto」…「小さな狼」を意味する彼らの牙は、まだ折れてはいないのだから。

※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。

筆者名 結城 康平
プロフィール サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。
ツイッター @yuukikouhei

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