J2リーグで過ごした長い長い日々。16年という年月は岡山の積もりに積もった感情を爆発させました。
僕も現地で観戦させて頂きましたが、スタジアムには多くの歓喜と涙がありました。言葉で表現するには勿体無いと感じるだけのものがそこにはありました。
では悲願の初昇格を掴むため、この試合で起きていたことについて考えてみようと思います。最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
スターティングイレブン
能動的なトランジション作成とハイプレス
442で構えるベガルタ仙台。これに対してファジアーノ岡山は3枚のセンターバック(以下CB)を上手く使いながら攻撃を組み立てていきます。
その土台となるのは3CBと2枚のセントラルハーフ(以下CH)になっていました。まずここで優位性を取りにかかったのがファジアーノ岡山でした。
ベガルタ仙台のCHが前に出てくるのならば、一美和成への長いパスを打ち込みながら2ndボールを作り出し、トランジションを発生させてウイングバック(以下WB)を使いながら、ベガルタ仙台を押し込んでいきます。
またベガルタ仙台CHが出てこないのならば、3CBが持ち出しながら攻撃の厚みを作り出していきます。
特に前者の攻撃方法は末吉塁のゴールシーンに象徴されるように、トランジションを能動的に作り出す大きな効力がありました。
ベガルタ仙台はCHが前に出ること、3CBに対してサイドハーフ(以下SH)を押し出すことが多かったため、ファジアーノ岡山は長いパスからチャンスを作り出すことが出来ていました。
またこの方法はベガルタ仙台にボールを渡す形にはなるのですが、今季を象徴するハイプレスを仕掛けることができます。
彼らは523のプレッシングでベガルタ仙台のビルドアップに制限をかけていきます。いや、時間とスペースを奪ってボールを狩り取っていきます。ではその方法はどのようなものだったのでしょうか。
ファジアーノ岡山はセカンドトップ(以下ST)がCBに覗きながら、CHの工藤蒼生や鎌田大夢など、アンカー(以下DMF)化する選手にはセンターフォワード(CF)を押し戻すことで、外側へ誘導していました。こうすることでWBが前に出て行く時間を創出します。
特にベガルタ仙台の右サイドバック(以下SB)が高い位置を取ることで、SHの郷家友太が内側に入り込むので、ここをCBで潰しにかかります。
またWBが前に出る場合は、最終ラインがしっかりとスライドを行っていくことで人を潰しにかかることができていました。だからこそファジアーノ岡山は、ハイプレスからボールを回収してショートカウンターに出ることもできていました。
さらに自陣でブロックを作る時は541になっていました。先述したようにベガルタ仙台はSBを高い位置に押し出すことが多いので、ファジアーノ岡山はSBが空けたスペースを使ってカウンターに出ていきます。
ここに流れてくるのが一美和成です。彼がサイドに流れながらボールをキープしてくれるので、STの選手たちが前に出ていくことができていました。ここから押し出す縦への推進力はきっと今季のファジアーノ岡山の大きな武器だったはずです。
ファジアーノ岡山はハイプレスと能動的なトランジション作成によって、ベガルタ仙台を上回り、チャンスをモノにして見事にJ1昇格を手にしました。
ルカオの存在
そして何よりもルカオの存在です。J2の環境破壊選手の1人と言ってもいいでしょう。本山遥が決めた決定的な追加点。ルカオが作った時間とスペースをしっかりと生かした攻撃でした。
ではルカオの何がすごいのでしょうか?それは「自分が及ぼすことのできる影響力の把握」だと思います。
自分がボールをキープすることで味方が楽になることを理解しています。自分がボールを持てば2人は引きつけることができることを理解しています。このキープ力を生かすことで、マーカーの対応を変えさせます。
例えば早めにルカオの近くにDFを置くようになると、予めスペースが生まれることになります。そうするとルカオはシンプルにそこにボールを流すことを行うことができます。
だからスムーズに攻撃に出ることができますし、このクオリティの選手を後半から出せるファジアーノ岡山の理不尽さを感じざるを得ません。
しっかりと現場とフロントが一丸となって、チームを作り上げていることがひしひしと伝わるルカオ投入、そして交代策的中だったのではないでしょうか。
全員で作り上げた熱量
僕はこの試合を現地で観戦させて頂きました。そこで感じたのはやはり熱量です。ベガルタ仙台も当然のように熱量を感じたのですが、その熱量を飲み込むほどのものがファジアーノ岡山にはありました。
当然「ホーム」という有利な状況もあったでしょうが、それを踏まえてもファジアーノ岡山の方が熱量で上回っていたと思います。そしてその熱にあてられるように、ファジアーノサポーターの熱量も上がっていました。
選手がサポーターに熱量を伝染させ、サポーターがその熱量を受け取り、後押しする。そこには最高の空間がありました。この経験はやっぱりスタジアムまで足を運ばないと味わえない唯一無二のものです。
どのカテゴリーでも、どんな試合でも、スタジアムは唯一無二の場所で、サッカーは最高だと、J1昇格プレーオフ決勝を見て改めて強く思いました。
勝者がいれば、敗者がいる。時にサッカーは残酷ですが、やっぱり美しいものです。
唯一無二の最高の試合でした。ファジアーノ岡山の皆さん、ベガルタ仙台の皆さん、本当にありがとうございました。
そしてファジアーノ岡山、おめでとうございます!