「J1でまた苦しむことになる」
勝点72で首位の座を守りきった清水。それでも権田の顔から喜びは一切感じられない。もちろん、自身のパフォーマンスに納得していない部分もあるのだろうが、それ以上に元日本代表守護神の視線は、このクラブでJ1を戦う未来に向いていた。
「優勝は絶対狙いますが、ただ上がるだけでは意味がない。この2年間でエスパルスがどれだけ成長したか確かめられる場所はJ1しかない。僕はこのクラブでJ2降格という悔しい想いをしている。だからこそ、いまのままではJ1に上がったとしても、今年の町田さんのように優勝争いをできる自信がない。本当に目指さなければいけないレベルは、そこにあると思っています」
2022年にクラブ史上2度目となるJ2降格を経験した清水。去年はPO決勝まで上り詰めるも、J1復帰への切符は東京Vに奪取された。
「去年、僕らには勝負強さがなかった。ここで行われたPO決勝でも勝てていませんし、水戸戦や熊本戦でも決め切るチャンスを逃していた。まだ試合は残っているので、答え合わせはここから。きょうの時点では勝負強くなったとは言えない」
オリジナル10の清水にとって、目標はJ1復帰ではなくJ1優勝だ。きょうの試合で見せた盛り上がりと観客数は、トップディビジョンに匹敵した。だからこそ、今季の熱を一過性のものとして終わらせるのではなく、来季J1の顔になる覚悟が清水には必要だ。逆をいえば、その覚悟がなければ再び降格してしまうという不安が権田にはある。
「あと5試合しかないですけど、もう1段、2段レベルを上げないとJ1でまた苦しむことになる。2022年にJ2優勝した新潟ですら、J1で優勝争いはできていない。あのころの新潟ほどの強さも僕らにはまだないので、もっとやらなければいけないと感じています」
35歳に慢心はない。J2首位をキープしてもなお、自分たちの甘さを見つめ直していた権田。清水に与えられたミッションは、残り5試合でJ2優勝を確実なものにする勝負強さと、J1で戦うための土台づくりだ。
「今後クラブがJ1に上がっても下位で争うのではなくて、上位で戦い続けられるクラブになるために、どれだけ突き詰められるか。育成型クラブを掲げているので、子どもたちには『このエスパルス、かっこいいな」と思ってもらいたいですし、いつまでもエスパルスを愛し続けてほしい。そのためにはトップの選手たちが姿勢を見せ続けなければいけないと思っています」と、クラブの未来を語るころには、権田の表情にも明るさが戻っていた。
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清水は来月6日に茨城・ケーズデンキスタジアム水戸で第34節で水戸ホーリーホックと対戦する。トップディビジョンの厳しさと昨季の悔しさを胸に秘めたオレンジの守護神が、アウェーの地で清水を一つ上のレベルに押し上げる。
(取材・文 浅野凜太郎)