6月14日に開幕を迎えたEURO2024。オープニングとなったホスト国ドイツとスコットランドの1戦は5-1という結果となり、地元のサポーターも圧勝でのスタートに大きな盛り上がりを見せた。

そのEURO2024で意外にも「大会初出場」となるのがセルビア代表である。元Jリーガーの名選手ドラガン・ストイコヴィッチ氏が監督を務めていることもあり、日本からも大きな注目が集まっているチームだ。

今回、予選から現地でセルビア代表のオフィシャルフォトグラファーとして取材を積み重ねてきた石川美紀子さんが、欧州最大のコンペティションに向かうチームの展望を語ってくれた。

ピクシー「この舞台に戻ることを待ち望んでいた」

2000年、ベルギーとオランダで行われたEUROで「ユーゴスラビア」が最後に出場してから24年。旧ユーゴ解体後、W杯には「セルビア」として何度も出ているが、ここまでなぜかEUROには一度も出場歴がなかった。今回のEURO2024は、セルビア悲願の「初出場」となる。

セルビア国歌を歌うピクシー(キプロスにて2024.03.25撮影)

現セルビア代表監督のドラガン・ストイコビッチ(ピクシー)は、2000年当時、ユーゴスラビアのキャプテンを務めていた。「監督として24年越しにEUROの舞台に戻るこの瞬間を、ずっと待ち望んでいた」とピクシーは会見で語っている。

昨年10月、モンテネグロと対戦したEURO予選で、1試合を残して早々に本戦出場を決めたセルビア代表。今年に入ってからは、国際親善試合を3月に2試合、EURO開幕直前の6月上旬にも2試合行い、満を持して11日(火)にドイツ入りした。

現地時間8日(土)にアウェイでスウェーデンと対戦したフレンドリーマッチでは0-3で快勝しており、上々の仕上がり具合でEURO初戦のイングランド戦(日本時間17日早朝4時)に臨む。

国際政治の話題に惑わされず「ピッチ内のサッカーに注目を」

今年3月の代表ウィーク時、私はセルビアに滞在していて、現地でセルビア代表とピクシーを取材撮影していた。フレンドリーマッチ2試合はどちらもアウェイで行われ、初戦は国際舞台から追放されているロシア代表とモスクワでの試合だった(さすがにロシア現地取材はしていない)。

ド派手な演出で、ロシアサッカー協会の政治的な意味合いを非常に強く感じさせる試合に、セルビアサッカー協会が全面的に協力している、というような印象を受けた。

しかし、ピクシーをはじめ現場レベルの選手やスタッフが、どこまで両国の政治色の強さを意識しているかは、また別の話である。

実際、出発前にセルビアで行われた会見では、記者から繰り返されるロシアへの政治的な質問(当然、ロシアへの肯定的なコメントを求めているもの)に、ピクシーは若干辟易した表情も見せていた。

会見で若干辟易した表情を見せるピクシー
セルビア代表の喜熨斗勝史コーチ

続く2試合目のアウェイ、キプロス戦は前日練習から現地で取材。セルビア側から来ていたフォトグラファーは私を含めて2人のみで、日本人女性の私がセルビアサッカー協会のオフィシャルフォトグラファーのひとりとして撮影させてもらえることになった。

この日、セルビア代表のキャプテンを長く務めているレジェンド、ドゥシャン・タディッチの代表キャップが106となり、歴代1位の記録を更新。タディッチのいぶし銀プレーは惚れ惚れするほど美しく、その身体は彼の妥協のない日常生活を物語っている。

セルビアをはじめとするバルカン諸国の報道では、サッカーと国際政治は絶対に切り離すことができないきらいがある。しかし、現場で実際に選手たちのプレーを目の当たりにしている人間としては、「いま伝えたいことはそこじゃない」感を常に心に抱えてしまうのだ。

世界のトップクラスで活躍しているセルビア代表選手たち、またピクシーが目指すサッカーそのものにも、もっと注目が集まるべきだと思う。