28日に行われたUEFAチャンピオンズリーグのグループステージ第2節で、レアル・マドリーに勝利した「シェリフ・ティラスポリ」。
モルドバの王者として予選1回戦から出場し、テウタ(アルバニア)、アラシュケルト(アルメニア)、ツルヴェナ・ズヴェズダ(セルビア)、ディナモ・ザグレブ(クロアチア)を破って本戦にまでたどり着いた。
これはモルドバのクラブとしては初めてのことで、歴史的にも大きな意味を持っている快進撃であった。
しかし、実はシェリフは「モルドバのクラブだがモルドバのクラブではない」という存在。
シェリフが本拠地を置いているティラスポリは、沿ドニエストル・モルドバ共和国という実質的な独立地域に位置している街だ。
モルドバとウクライナの国境を流れているドニエストル川に沿って細長く存在する「トランニストリア」という地域にある自治区で、議会も通貨も社会制度も軍隊も独自のものを使用している。
そこで暮らしている人物の多くはロシア人やウクライナ人。1992年からロシアの支援を受けて独立戦争を行い、現在の立場を確立した。
ウクライナやロシアへの密輸が非常に盛んな地域でもあると伝えられているこの国で、経済を支配しているのが「シェリフ・グループ」という民間企業である。
1993年に設立されたこの企業体はスーパーマーケットやガソリンスタンド、テレビ、携帯電話ネットワーク、アルコール醸造、自動車販売、電気化学工業、パンの生産、海産物の養殖業、出版や広告…など様々な事業を行い、持ち株会社で働く労働者は1万5000人に達すると伝えられる。
沿ドニエストル共和国の税収の半分がシェリフ・グループに関わりがある企業によって収められているほど、地域の経済を支配する存在だ。
その企業が所有しているのがシェリフ・ティラスポリ。モルドバリーグのクラブで唯一スタジアムを自社を保有しており、巨大な資金的援助を基盤として権勢を誇っている。
もともとはアフリカや南米の選手を買って、ロシアやスイスなどのクラブに売る…というビジネスモデルだったが、国内リーグのレベルが低いためにそれほどうまく行かず、基本的にはシェリフ・グループの支援が頼りとなっている。
モルドバリーグは規制が緩いためにほとんどが外国人選手で構成されており、地域の誇りという状況にはまったくなっていないが、今季は欧州の舞台で「シェリフ・グループ」の力を見せつけるチャンスを手にしている。
シャフタール・ドネツクとレアル・マドリーを相手に2連勝を果たし、グループDで首位を走る「シェリフ・ティラスポリ」。初の決勝トーナメント進出はなるか。