世界を驚かせた超プレー

「ベルカンプ=トラップ」という印象を確固たるものとしたのは、日本代表が初めて世界への扉を開いた1998年のワールドカップであろう。

グループステージを苦しみながら突破したオランダは、ラウンド16でユーゴスラヴィア代表を破り準々決勝へ。相手はベッカム、オーウェンらのいるイングランド代表を撃破した南米の雄アルゼンチン代表だった。

試合は1-1のまま互いに譲らず。延長戦へと突入するかと思われたが、90分、その“伝説”は生まれた。

DFフランク・デ・ブール(現アトランタ・ユナイテッド指揮官)からのロングフィードは、ベルカンプ曰く「足を使うには高く、胸でコントロールするには低い」パスで、頭で落とすのが常識的な判断であった。

しかし中央に味方はいない。そこでベルカンプは瞬時にトラップすることに切り替える。右足を伸ばして正確にコントロールした瞬間、アルゼンチン歴戦のDFロベルト・アジャラが襲いかかるが、その動きさえ想定内だった。

ベルカンプは止めたボールが落ちる瞬間、今度は右足で叩き付けるようにして切り返したのだ。これでアジャラを一瞬にして“亡き者”とすると、最後は右足アウトサイドのシュートでネットを揺らしたのである。

ベルカンプは極端なまでの完璧主義者として知られ、「100%満足する試合などあるはずがない」というのが持論だ。

その彼をして「その瞬間は完璧だと思ったよ」と語ったこのゴールは、オランダを4強へと導くとともに大会を彩るゴールの一つとして今なお語り継がれている。