そんな不安要素だらけのチームに、更なる激震が走る。元監督ナイジェル・ピアソンの息子でレスターに所属していたジェームズ・ピアソンと若手数選手が、差別用語を使いながらタイ人女性と乱交している動画が流出。タイ人オーナーであるヴィチャイ・スリヴァッダナプラバの逆鱗に触れ、事件に関わった選手はチームを離れる。

また、父親である指揮官ナイジェル・ピアソンもプレッシャーが強まったことで退任。レスターを長く支えてきたチームの指揮官まで、不用意な選手の行動をきっかけにして失ってしまう。

しかし、クラウディオ・ラニエリが全てを変える。多くのチームで苦境からの立て直しを任されてきた「修理屋」と呼ばれるイタリア人指揮官が、窮地に陥ったレスター・シティに就任することになったのだ。

これは後に本人が「人生で最高の出会いだった」と語るものとなった。トップリーグでのタイトル経験がない老将と、エリートとしての道を歩んできていない選手達。誰にも予想出来なかった化学変化が、少しずつ彼らを変え始める。タイ人のサッカー解説者は先日、「ホテルでの事件は恥ずべきことだが、結果的に救世主を連れてくることになった」とコメントした。

ここで1つ、触れておくべき点がある。クラウディオ・ラニエリはレスター・シティ側の「チームのスタッフやコーチは、そのまま残して欲しい」という珍しい要求を快諾。多くの指揮官が子飼いのコーチやスカウトと共に、「チーム」として新しい職場へと赴く傾向がある欧州のフットボールチームにおいて、スタッフを全て残しておくというのは珍しい。

実際、他の指揮官候補は誰一人として首を縦に振らなかったという。新しいチーム、新しいスタッフ。修理屋ラニエリは、この段階でチームの裏方を弄らなかった。これこそが、成功に繋がる1つの鍵となる。

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