「“完璧”を目指すのはよせ、それよりも“進化”しろ。どんな結果になろうとも」

デイヴィッド・フィンチャーが監督を務めた1999年の映画『ファイト・クラブ』ではこんな台詞が登場する。管理社会等への反体制メッセージを持った、過激なサタイア作品であることを抜きにしても、この言葉は群像社会の現実の核心を突いていると感じる。

当然今回お話するのはフットボールについてだが、ブラッド・ピットが演じたこのタイラー・ダーデンの魂の叫びを、このコラムのイントロダクションとさせていただく。

己の思い描いた“完璧”なフットボール。それを掲げた2014年の就任から20か月が経過し、460億円ともいわれる資金を市場に投入したルイ・ファン・ハールのマンチェスター・ユナイテッド。

アドナン・ヤヌザイの復帰報道は私を歓喜させたが、一方でメンフィス・デパイの出場時間がさらに減るのではないか、という不安も大きくなった。

デパイの獲得オペレーションは私が現体制になって以降最大の喜びであった。過去エールディビジのトッププレーヤーがイングランドで、その能力を発揮できずに消えていく姿は多く目にしてきたが、私はいまだにデパイの成功を確信している。

クリスティアーノ・ロナウドは2003年のデビュー戦から徐々にパフォーマンスを低下させ、シーズン終了時には多くのメディアが疑問符を突き付けていた。しかし、ファーガソンは彼を使い続けた。

その結果、ロナウドが本格的にブレイクをしたのは05-06シーズンだったという意見で、そう異論はないはずだ(EURO2004で大きく飛躍したことは勿論である)。

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