【名将たる条件は。】

名将が名将たる所以はどこにあるのだろう。必ず勝利を勝ち取ってくる、大勝負に強い、タイトル獲得数、などなど当てはまりそうな条件をあげていけばキリがなさそうだが、チームと選手の持てるポテンシャルを最大限引き出す、またはそれ以上のものを発揮させる、ということもあげられるのかもしれない。それは短期間で出来るものもあれば、ある一定期間を掛けなければ出来ないものもある。サー・アレックス・ファーガソンはこの類の力を持っていたように思えるが、デイヴィッド・モイーズはどのタイプになるだろうか。

ユナイテッドが結果を残せない度にサー・アレックス・ファーガソンを懐古するする気持ちは、決しておかしいことではない。ここ数年、チェルシーやシティの超大型補強によって、選手という駒の質と量においてユナイテッドはプレミアで最も優れたクラブではなかった。しかしそれでもタイトルは増え続け、ファギーとユナイテッドは栄光を築き上げていった。贔屓目にみてもユナイテッドのタレント力はプレミアにおいてもヨーロッパを見てもさほど豪華というわけではない。それでも勝ててきたのは、紛れも無くファギーの力と威厳によるところが大きいのは言うまでもないことだ。さして戦術が優れていたわけではないが、四半世紀を掛けて積み上げた実績と経験はクラブと選手に安心と自信を生み出し、相手には威圧を与えた。試合前から優位に立っていた試合は数え切れないほど多い。つまり、その魔法のような後ろ盾が無くなった今、選手がこれまでのパフォーマンスを発揮できなくてもある意味仕方がないのかもしれない。

【魔法使いファギーとギルの功罪。】

故人に例えるのは失礼かもしれないが、スティーブ・ジョブズ亡き後のアップル社は散々な言われようだった。これをユナイテッドに置き換えれば、ティム・クックまで同時にいなくなったようなものだと例えることが出来る。デヴィッド・ギルという男の存在も非常に大きいものだった。オフのマーケットでの失敗を見ているとそれは明らかである。つまりモイーズの手腕のみに責任があると見るのは些か問題がありそうだ、ということが言いたい。2大巨頭の功罪がモイーズを苦しめているという見方は出来ないものだろうか。

もちろんピッチでどうにか出来るのは指揮官と選手たちしかいないのだが、四半世紀続いてきた組織の体質をスパッと切り替えてその上で結果を出すということが如何に難しいかは、社会人の方であれば容易に想像がつくのでは無いだろうか。もちろんフットボールであって会社ではないのだが、まったく違うとも言い切れない。共に人間が生み出す仕事であるのだから、大いに共通するところはあるだろう。

モイーズが魔法使いでないことは就任前から明らかであった。しかしそれでもモイーズを選んだのは、長期的にユナイテッドのアイデンティティを保てると判断したからなのだろう。他のクラブの様に短期的に結果を残せそうな監督ならば、選択肢はいくらか広かったはずだ。ただしユナイテッドはそうではなく、長期的スパンを見据えたクラブ経営を優先した。もちろんタイトルが無くてもいいとは言わない。しかしファギーがそうであったように、長期的なスパンで結果を残すことを考えれば、自らの手によって土台を形成していく作業が必要になる。ファギーの地盤は確かにある。が、それでもモイーズ自身の手によって土台を作らねば、なにかあった時の補修作業に余計な手間がかかる可能性は否定できない。数年後にモイーズのひな鳥たち、と呼ばれる選手が出てくる可能性を残しておこうじゃないか。

ファギーも最初は魔法使いではなかった。徐々に徐々に魔法という名のマネージメント能力を身につけていったのはしばらく経ってからのことである。

もちろんモイーズがファギーのような大魔導師になるかは分からない。ただ、なれる可能性が無いわけでもない。その片鱗が未だにピッチで見られていないことが、様々な議論を活発にさせているのかもしれない。誰かがファギーの魔法を見過ぎた我々へ少々お休みを与えているのかも。その休みがどれくらいの長さになるかは分からないが、“We’ll never die.”と叫び続けていれば決してそう遠くはならないことを願うばかりだ。

【シンプルでいいんじゃない?】

さて試合の方だが、ニューカッスルと「互角」の試合をしてしまった。なにもニューカッスルを蔑んでいるわけではなくユナイテッドに対する皮肉である。

復帰明けのファン・ペルシーが本調子に程遠く、ビルドアップもままならない状況を突かれてしまえば、ああいった結果になってもしかたがない。失点自体は不運なものだった。エヴァートン戦でもそうだったが、ああいう失点はフットボールの世界では珍しいものではない。

モイーズの采配もスッキリしないものだったが、個人的に思うところはいくつあった。「難しいことはやるな」ということである。ポゼッションするとかポジショニングがどうとかではなく、そんな細かい事ができるメンツではない。ひどい言い方をすれば脳筋と言われても仕方ないよな、というメンツは揃っている。いいじゃないかそれでも。全てのクラブが美しくバルセロナスタイルを目指す必要はないのだ。あれが全てにおいて正義ではない。ポゼッション出来ると、能力のない人間がそろって勘違いしては悪循環に陥るのも当然である。ファーガソンがごまかしてきた部分が今になって露呈していることは紛れもない事実だ。古き良きイングリッシュスタイルでも構わない。ミスを恐れず、ハードワークを続け90分間走りぬき、絶え間なく攻め続ける姿勢を貫く。シンプルに、縦に、速く、強く。今のユナイテッドにはこれで十分だろう。ドタバタするかもしれないし、美しくは無いかもしれないが、泥臭くとも熱いスピリットを忘れなければモスクワやカンプ・ノウのような歓喜を再び味わえるかもしれない。

賢くプレーする前に熱いスピリットを失って元も子もない。安っぽいプライドなど捨ててしまえ。負けたくない、勝ちたい、という欲望さえ持っていれば結果は後からついてくるはずだ。ここはカンプ・ノウでもなければグアルディオラもクライフもいない。袖にあるチャンピオンパッチが偽物でないことを証明するにはまだ半分残っている。血が煮えたぎるような熱い戦いっぷりを見せておくれ。その欠片を見ることができれば今の僕は満足かもしれない。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッタ ー: @db7crsh01

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