1月21日に開幕を迎えたアフリカネイションズカップは、数々の優勝候補を破ったザンビアが初優勝を果たすという劇的な結末を迎えた。
思えば、予選から既に波乱に満ちた大会だった。前回優勝者のエジプトはシエラレオネ、ニジェール、南アフリカを相手に第6節まで勝利をあげることが出来ず、グループ最下位で敗退。
アフリカ屈指の強豪と言われる“スーパーイーグルス”ナイジェリア代表、“不屈のライオン”カメルーン代表も本大会を前に散った。また、予選を無敗で突破したセネガルは優勝候補と評価を受けたが、大会が始まってみれば3連敗と全く奮わずに終わった。
逆に力を発揮したのは優勝したザンビア、そして開催国赤道ギニアとガボン。高いモチベーションに支えられた彼らは終始大崩れすることはなく、守備の組織力を保って勇敢に戦った。実力以上の試合内容を見せたと言えるだろう。
・崩れなかったザンビアの組織、両開催国の健闘
ザンビアが素晴らしかったのは、チームコンセプトに芯が通っていたことだ。
前線に人数をかけ過ぎず、4-4-2の形だが片方のサイドを守備的にし、過大なリスクを避ける。前線ではマユカ、カトンゴ、カラバのトライアングルを形成することで効率を向上させ、ボールを奪ったら手数をかけずにスピードを生かして攻める。それを支えたのが集中力と運動量だ。
彼らは2年前も非常に組織的で、監督も同じエルヴェ・ルナールが務めていた。その時と比べて大きく変わったわけではないが、マユカの成長によって前線で溜めを作れる機会が増え、押し上げが効くようになった。
わずかな変化であったが、前回大会で見せたミスからの自滅、決定力不足をカバーできたのではないか。事実、今大会でマユカに代わってシャマンガが入った時、機能性は明らかに落ちた。
ザンビアほどではなかったが、ガボン、赤道ギニアも戦術的にしっかりしたチームであった。前者は徹底した縦に速いサッカーを志向し、前線に当てた後の果敢な追い越しでアクセントを付けた。後者は3バックと4バックの中間と言えるような左右非対称のシステムで、ザンビアと同じように「どのようなシステムであろうと、前にイバン・ボラド、バルボア、フィジュのトライアングルを作っておけば攻撃できる」という効率重視のコンセプトであった。
要するにこの3チームは、個に頼りすぎることなく「こう守って、こう攻める」というプレーの一連の流れが確立されていたのである。
・守備が不安定すぎたマリ
3位に入ったマリは、守備の不安定さが目に付いた。特にクロスボールに対しての守りでマークを外すことが多く、センターバックのベルテは明らかに力不足。準決勝でガボンに勝てたのは幸運に恵まれてのことである。
ただし、2年前を考えればこのチームは大きく向上したと言える。アラン・ジレス監督の功績は大きい。
かつてはザル同然の緩慢なディフェンスと、ママドゥ・ディアラ、モモ・シソコ、セイドゥ・ケイタの中盤でボールが詰まる無駄なポゼッションで自爆していた。
しかしチームに大きな影響力を持っていたベテランが減ったことで、若手に自覚が芽生えたのか、個性が発揮されるようになっている。バカイ・トラオレやサンバ・ディアキテ、モディボ・マイガ、シェイク・デイアバテなどは、セイドゥ・ケイタに代わって今後チームの中心となっていくだろう。
・不振に喘いだ強豪国
一方、前評判が高かった優勝候補、コートジボワール、ガーナ、セネガルの3チームは揃いも揃って良いパフォーマンスではなかった。
準優勝に輝いたコートジボワールも、突出した選手層の厚さを考えれば不満の残る出来。フランソワ・ザウィ監督は「この気候ではフルパワーで戦うことが出来ない」と話していたが、まさにその通り最初から最後まで力をセーブしたままであった。
全体的に運動量が乏しく、個人能力で押す強引な攻め、プレスが掛からず下がっていく守備が目立った。それで最後まで勝ち残ることが出来たというのは、地力が突出していたことを表している。
ガーナはチームのコンセプトはきっちりと作られていた。基本は守備をベースに戦い、相手が攻めてくればギャンにロングボールを送り一発狙い。そうでなければアユー兄弟のドリブルで強引に切り崩す。
しかし反面それに特化したチーム構成になっていたため、対策された際のオプションが乏しかった。中央を固められてクロスしか方法がなくなると得点力が皆無になることが読まれ、大会が進むごとに力を発揮できなくなっていった。
3連敗で大会を去ったセネガルは問題外である。ムサ・ソウ、デンバ・バ、パピス・シセ、ママドゥ・ニアングといったワールドクラスのストライカーを出来るだけスタメンに配置したいのは分かるが、守備の組織はボロボロで、カウンターの起点を潰せず崩壊。攻撃も個々の突破任せでサポートが乏しく、一人で数人を相手にすることもしばしば。流れどころか、攻守のどちらかだけでも組織らしきものが存在しなかった。
・表れた「アフリカらしさ」
この波乱の多さはまさに「アフリカ」である。欧州ではシーズン途中となる難しい時期に行われる上、きっちりと大会に合わせてきたチームとそうでないチームの差が非常に大きい。
要するに、この結果だけを見て「アフリカの勢力図が変わった」と見るのは早計だということだ。何せ、この大会の優勝者がその後のワールドカップに出た例は、2002年のカメルーンまで遡らなければならないのである。
ザンビアが優勝したとはいえ、コートジボワールとの間に個人能力の差があったことは誰の目から見ても明らかだ。また、高い評価を受けたエルヴェ・ルナール監督がいつまでも現職に留まっているわけもない。アフリカの強豪国だけでなく、オイルマネーに溢れる中東からの誘いが必ずあるだろう。
ザンビアはアフリカの中でも裕福な方ではない。組織の組み替えを余儀なくされたときにどう対応していくか、今後ザンビアサッカー協会の力が試されることになるだろう。
(筆:Qoly編集部 K)