3冠達成。そしてグランデ・インテルの誕生

バルセロナとのチャンピオンズリーグ準決勝を控えて、カンピオナートでは少々問題が発生した。31節でインテルを下したローマの勢いは留まるところを知らず、33節のフィオレンティーナ戦にインテルが引き分けたことにより、首位をローマに明け渡してしまう。だが、この33節の三日後に行われたコッパ・イタリア準決勝のセカンドレグ。相手は同様にフィオレンティーナであったがこの試合を1-0で勝利。2試合合計2-0で決勝へ駒を進めると、国内リーグの次の相手はユヴェントスとのイタリア・デルビー。本来であれば厳しい戦いが予想できたが、今シーズンもがき苦しんでいるユヴェントスにはインテルの寝首を掻く力が無いのは明らかで、マイコンのスーパーゴールが飛び出すなど、2-0のスコアで戦前の予想通りに快勝。バルセロナとの大一番へ弾みをつけた。

そして4月28日、サン・シーロで行われたチャンピオンズリーグ準決勝ファーストレグ。アイスランドのEyjafjallajokull(エイヤフィアトライェキュトル)火山が噴火し、バルセロナの選手はバスで14時間かけて移動を強いられるアクシデントもあったが、この試合でインテルは最高のパフォーマンスを見せる。パーフェクトな守備組織を形成し、そこからのカウンター戦術が見事にはまる。少ない得点機をものにし、3-1の勝利でセカンドレグへ繋ぐ。続くカンプ・ノウでの試合も見事にタスクを達成し、世界で最も強いチームとされていたバルセロナを撃破。ついに決勝の舞台へ到達した。

セリエAではバルセロナ戦の2試合の間に行われた35節アタランタ戦の勝利により首位を奪還。残り3試合を全て勝利で終え、最終節のシエナ戦でスクデットを獲得。5連覇という偉業を達成した。また少し遡ることになるが、スクデット獲得の11日前に行われたコッパ・イタリア決勝はローマとの頂上決戦。ここでも1-0というスコアではあったが、カンピオナートで激しいデットヒートを繰り広げた相手に勝利しタイトルを獲得した。

スクデットとコッパ・イタリアの2冠を手にしたインテルは、2010年5月22日。マドリードのサンティアゴ・ベルナベウへ乗り込んだ。相手は準決勝でマンチェスター・ユナイテッドを下してきたバイエルン・ミュンヘン。指揮官モウリーニョにとっては恩師ファン・ハールとの師弟対決とも言える戦いとなった。準決勝でバルセロナを封じ込めたインテルは、この最大の大舞台でも改めて完全無欠の集団であることを証明してみせた。メッシを封じた守備陣はロッベンをも完封。シーズン中にチームのエースとなったミリートが35分と70分にゴールを決め、試合を決定づける。勝利を確信したモウリーニョは試合終了のホイッスルを聞く前にファン・ハールへ握手を求め、まもなくして主審が笛を吹いた。ビッグイヤーを掲げたキャプテンのサネッティは普段見せたこともない歓喜の表情を見せ、スタジアムに足を運んでいたインテリスタは皆喜び泣いた。

こうしてインテルは38年ぶりの欧州チャンピオンに輝き、スクデットとコッパ・イタリアと合わせ3冠を達成。これはイタリアのクラブとしては初めてのことだった。この偉業を置き土産にモウリーニョはレアル・マドリーへと飛び立ったが、モウリーニョが作り上げたこのチームはグランデ・インテルとして間違いなく後世まで語り継がれるだろう。

“モウリーニョ・システム”の完成

前述の通り、パンデフの加入に伴い4-3-1-2-から4-2-1-3へシフトチェンジしたが、パンデフ、ミリート、エトーの3トップをトップ下のスナイデルが操るという魅力的なユニットと、それを後ろで支えるカンビアッソ、サネッティ、モッタ、スタンコヴィッチら守備的MFの連携力は試合を重ねるごとに向上。また、ルシオ、サムエル、マイコン、キヴらで構成されるDFラインは、シーズンが進むにつれてより強固なブロックへと成長していき、後半戦には“欧州最固”と称しても差し支えないDFラインへとなっていた。

そして、そのソリッドな守備陣を語る上で欠かせないのは、上述の3トップの存在だ。モウリーニョはチェルシー時代にも3人のFWを並べるというシステムを好んで用いたが、彼が使用する4-2-1-3ないしは4-1-2-3は、両サイドのFWが守備時にMFのラインと合体し、4-2-3-1ないしは4-1-4-1へと変形するのが特徴的。インテルで同システムを用いた当初は、エトーやパンデフが守備にまで気持ちを傾ける余裕がなかったが、初春には、4-2-1-3から4-2-3-1へ移行する形がスムーズに行われるようになり、チーム全体の守備力は飛躍的にレベルアップ。「点を奪うだけではなく、いざとなれば守りきれる」という理想的な布陣が完成した。バルセロナやバイエルンの攻撃陣を封殺し、欧州王者へと辿りついたが、その最大の要因は、シーズン中に、この“モウリーニョ・システム”を選手達が完全に理解したことにあるだろう。

"インテル3冠の軌跡 vol.2" |Feature @ June 2010|text by football web magazine Qoly

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