◆2010年、マインツの乱◆

2010-2011シーズンにおける、ブンデスリーガの混沌ぶりは、前頁の通りだが、この良きカオス空間を作り上げた“主犯”がマインツである。開幕戦でシュトゥットガルトを2-0で下すと、その後もヴォルフスブルク、ブレーメン、バイエルンら有名クラブを食い、先週末に行われたホッフェンハイムとの試合でも4-2と勝利。その勢いは止まる気配を見せず、2008-2009シーズンに上半期王者になるなど、一時期ブンデスリーガを席巻したホッフェンハイムを上回る好成績が期待されている。では、彼らが首位に立っている最大の要因はどこにあるのだろうか。マインツというクラブは、現在はドルトムントで指揮を執るユルゲン・クロップの下で2003-2004シーズンにブンデスリーガで昇格を果たし、昇格後のシーズンは11位。さらに、翌シーズンも同順位をキープし、降格間違いなしと見られていたチームとは思えぬ、結果を残したが、2006-2007シーズンには遂に降格し、そこから2年をかけて2008-2009シーズンに再昇格。そして、昨季はブンデスリーガで9位という成績を収めた。つまり、彼らは、昇格と降格を繰り返す、俗に言う「ヨーヨークラブ」であり、世界的に見れば、マイナークラブ。そんな彼らが大旋風を巻き起こしているのだ。このサプライズは、もちろん、前述の有名クラブがそのネームバリューに見合ったパフォーマンスを見せていないという事象が生んだ副産物と言えなくもないが、私はマインツの実力自体を素直に評価したほうが賢明だと考えている。では、戦術的な見地から、そのチーム力を探ってみよう。

◆ブンデスリーガ屈指の組織力◆

現在、マインツの監督の座に座るトーマス・トゥヘルは、2008-2009シーズンから率いているが、将来の代表監督候補にも推されている彼の影響力は凄まじかった。マインツは、クロップ政権時代に、ブンデスリーガの中でもトップクラスの組織力を築き上げていたが、トゥヘルが監督に就任したことにより、その質は飛躍的に向上。彼らの代名詞として、「いかなる対戦相手が来ても動じない戦術的柔軟性」、「ポゼッションとダイレクトプレイを使い分ける戦術的多様性」、「積極的なフリーランニングとポジションチェンジでダイナミズムを生む戦術的流動性」の三点を挙げたいが、それぞれの質がブンデスリーガでも最高クラスのレベルにあるのだ。トゥヘルという人物は、練習でオフサイドルールを廃止したり、ハーフコートの四隅にゴールを設置したり、ピッチの形や長さを変えたりと、奇抜な発想の持ち主として知られているが、ただ、変わったことを行うのではなく、全てのアイデアが理に適っており、そして、これらを選手達が理解することで、ビッグクラブとも対等以上に渡り合えるチームへと進化を遂げたのである。

監督のトゥヘルはスタメンと並びを固定しない手法を取っている

ある時は、最前線から猛烈なプレスをかけてボールを奪ったかと思うと、すぐに縦に速いサッカーでDFラインの裏を突く。またある時は、しっかりとブロックを形成してから相手を誘い込み、そこからのロングカウンターで急襲。またある時は、ボールを丁寧に回して揺さぶり、機を見たギアチェンジで攻撃を仕掛けるなど、その戦法は無尽蔵。さらに、これといった基本フォーメーションを持たず、相手チームからしてみると、試合前にマインツの対抗策を練ることは一苦労だろう。

シーズン序盤から飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち星を重ねたチームというのは、その後失速するというのがサッカー界の常識と言える。だが、このクラブにおいては、その常識が通じないのではないだろうか。ここで断言するのは、時期尚早であるが、それは百も承知であえて言いたい。

「きっと、彼らはシーズン終了まで優勝争いを演じ、来季は欧州の舞台で躍動するだろう」と。

(筆:Qoly編集部 T)

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