Qolyアンバサダーのコラムニスト、J1全部見るマンによるレポートをお届けします。
初タイトルを獲得した昨シーズン。そこから研鑽を積み、確かな強さを手に入れているのがアビスパ福岡です。昨シーズンも十分に守備の堅さはあったのですが、今季のアビスパ福岡はそこにさらに磨きがかかっていると思います。さらに保持へのトライも挑戦しているように僕には映ります。
ではアビスパ福岡がどのような戦い方をしているのか、なぜ安定しているのかを考えてみます!
『手数をかけずに!』から弾き出した5-2-3ハイプレス
アビスパ福岡の特徴の1つとして、5-2-3のハイプレスが挙げられます。まずはハイプレスを仕込んだ理由を少し考察してみると、やはり「手数をかけずに攻撃を仕掛けられる」というところにあると考えます。
だからこそ長谷部監督が作り出すチームの5-2-3のプレスは確実に屈強なチームが揃うJ1を苦しめています。
ではその守備の優先順位がどのようになっているのかを考えてみようと思います。
ハイプレスを発動する準備
攻撃を完結させる事ができればセットしたところからハイプレスを発動できるのですが、全部が全部そうならないのがサッカーというスポーツ。連続してプレーが続くので、「奪われた瞬間」のプレーの大枠が必要になってきます。長谷部監督のチームはハイプレスを仕掛けるために、以下のような優先順位でプレーしているように見えます。
①:奪う!よりも先に組織を整える
②:整えるために近くの選手がボールホルダーへの制限
③:スペースを消して前進を止める
④:プレスのフェーズへ
ハイプレスを発動するために、アビスパ福岡はこの優先順位でプレーすることが多い印象です。
まずは組織を整えるために逆算しながら、スペースを消して前進を頓挫させることを行っていきます。そしてここからハイプレスのフェーズに移行します。
ではどのようにボールを奪い、ショートカウンターを発動させているのかを考えてみます。
迎撃とショートカウンター
組織を整えて5-2-3のプレスの準備ができると、チームとして誘導していく場所が明確になります。その誘導していく場所が、「CHの脇のスペース」になっています。具体的には以下の図の場所になります。
ここに誘導していくために1stプレス隊は中央を消しながら、外側に誘導していく事が基本形となります。
対戦相手が4バックでも3バックでも、外側に誘導していく事が基本となってきます。4バックだとSBに誘導、3バックだと広がるCBもしくは下がってくるWBに誘導していきます。
この時に大切になってくるのは1stプレス隊の中央の隠し方です。しっかりCBの中央のやり取りの選択肢を削っていく事が重要なポイントとなります。そしてアビスパ福岡は誰が出場してもこのプレスの強固さを維持できるので、当たり前ですが凄いなあと感じます。
そして外側に誘導していくと、迎撃を作るためのフェーズに移行していきます。
ここでプレスの口火役となるのはCFです。多くはCFからハイプレスが発動します。ここでボールサイドのSBに対してSTがプレスを行います。また逆のSTはCHまで絞ることを行います。
重要なポイントになるのが、CFとSTがセットになって中央を隠しながらプレスに出ていくことです。これを行なっていくことで、CHをボールサイドにスライドさせることが可能になっていきます。さらに大外のレーンに立つ選手にはWBが対応を行なっていくことで、ボールホルダーの選択肢を削っていくことができます。
この選択肢を削っていくこととプレス強度が迎撃の成功率を上げる大きな要因となっています。なぜこの2つが必要なのかは、ボールホルダーの選択肢を削っていくことによってプレーを急かすことができるからです。プレー選択が早くなればなるほど、判断と技術の精度を落とすことができます。またプレス強度や圧力を加えていくことで、プレースペースを消して視界を狭くさせることを押し付けていきます。
チームとしてのタスクと相手に与える影響を考慮しながら制限をかけていくことによってボールを奪っていくフェーズに移行します。
ボールホルダーに制限をかけているので、相手味方はサポートを行わなければならなくなります。そうしないと自陣深くでボールを奪われることになるからです。そしてこれがアビスパ福岡の罠になります。ボールホルダーは時間とスペースを奪われ、プレーと判断を急かされるので、見つけられるスペースであるCHの脇のスペースになってきます。ここに入ってくるCHやCFをCBが迎撃していくことで、アビスパ福岡はハイプレスを完結させていきます。
人を基準に守らずにスペースを中心に守備を行なっていくので、相手が動きを加えても混乱することなくボールに対応することができるようになっています。動かされて組織を崩されることのないように、しっかりとスペースを管理しながら守備を行うところにもアビスパ福岡が安定している理由があるのではないでしょうか。
迎撃を作ったら手数をかけずにカウンターへ!
迎撃を作るとそのまま手数をかけずにカウンターに出ること選択するのがアビスパ福岡。これが猛威を振るっていることは間違いありません。丁寧な守備と迎撃を作り出すことによるメリットはどこにあるのでしょうか。
これは『攻撃の手順を省く』ところにあると思います。
例えば、ボールを大切に扱いながらゴールを目指すチームが踏む大枠の手順として「ビルドアップ/前進⇨崩しの準備⇨崩し⇨フィニッシュワーク」のフレームがあると思います。一方でアビスパ福岡はフレームレートの「ビルドアップ/前進」と「崩しの準備」を5-2-3のハイプレスによって省くことができています。
敵陣でボールを奪う大きなメリットはここになります。守備が攻撃に繋がるということをチームとして共有できるので、プレーの迷いが当然なくなります。さらに手数をかけないことと相手の陣形が整わないうちに崩しに入ることができるので、シュートまで到達する確率も上がってきます。攻撃を完結させることができると、再びハイプレスを押し出すことも可能になります。また自陣でボールを失うというリスクをなくすことにも繋がっていきます。
だからこそアビスパ福岡はボールを相手に押し付けて守備から試合を作ることを考えているのだと思います。
これによってアビスパ福岡は堅実で手強いチームに成ったのだと考えます。
ミドル/ローブロックとロングカウンター
当然のことながら、全てハイプレスで試合を完結できる訳ではありません。この、ミドルブロックとローブロックにもアビスパ福岡の堅実さが隠されています。
自陣でブロックを作り出す場合は5-2-3の形を作り出します。ここで大切になるのが2ndラインの守備です。彼らの制限によって外側に誘導していくことが基本となるのですが、ここでもアビスパは人を意識するのではなく、スペースを意識しながら守備を行なっていきます。
1つだけ違う場所があるとするのならば大外の選手に対応するSTのタスクです。彼らは4バックの相手だとSB、3バックの相手だと外側のCBのポジショニングに依存することが多くなっている印象です。これは外側に誘導した時にすぐにボールに適応することと、WBに対しての瞬間的な数的振りを解消していくためと考えられます。
だからサイドに追い込んだときに数的不利になる場面が圧倒的に少なくなっています。ここの数的不利を解消していることによって、相手の攻撃を遅らせることが可能になっていきます。
この攻撃の頓挫こそアビスパ福岡が守れるもう1つの理由です。サイドで攻撃を遅らせれば遅らせるほど、ボールサイドに人数を集めながら圧縮していくことが可能になります。一気に素早く圧縮していくのではなく、チームとして組織を維持しながら徐々に徐々に圧縮していくので、攻撃側は気が付けば追い込まれている!という状況に陥っていきます。
ここから慌ててクロスを送り込んだとしてもその精度は低く、さらに中央には屈強なCBが待ち構えているので弾き返されてしまいます。また下のパスでバイタルエリアに差し込もうとするのならば、2CHの餌食となります。特に前選手と松岡選手のスペースの埋め方とヘルプのバランス感覚はJ屈指だと思います。この2人が中央を管理しているので、さらにアビスパ福岡の守備は堅いものになっていると思います。
そして奪ったボールはCFに届けていきます。まずはCFへ!という選択もまさに「らしい」ものだなと思います。リスクを最小限に抑える選択になっていて、さらにCFのボールの収まりを重要視していることも長谷部監督の起用方法からも伺えます。
ボールを奪った瞬間にCFに上のパスを当てるので、ボールを奪った逆のサイドのSTは一気に駆け上がります。ここの走力と2ndボールができる場所の予測もアビスパ福岡のSTを務める上で大切なものになっています。
これがロングカウンター発動の条件になるのですが、アビスパ福岡のロングカウンターの成功率は高い印象を受けます。ではなぜ成功率が高いのか。それは守備の部分で相手を引き込んでいるからです。
先述したように、ボールサイドの数的不利を解消するために人数を集めます。そうなるとやはり相手チームは優位性を作り出すために人数をさらに割くことが多くなります。こうなると、トランジションや被カウンターに割けるソースが少なくなります。
そして戻る時間を与えないためにアビスパ福岡はボールを奪った瞬間にCFへの上のパスを素早く選択しているのだと思います。だからアビスパ福岡はロングカウンターの完結率が高いのではないでしょうか。
全ての守備局面において、アビスパ福岡は攻撃を考慮しながら守備を行なっています。だから受動的な守備ではなく、能動的な守備で猛威を振るっているのだと思います。攻守セットで考えることができるチームだからこそ、対戦相手は「強いな、、、」と感じるのではないでしょうか。
保持へのトライか?
ボールを押し付けることで守備から試合を作り出していくアビスパ福岡。しかしながらボールを持たされる場面だったり、先制点を取られてしまうとボールを持たなければならない状況に陥ることもあります。さらに進化して上を目指していくために長谷部監督は保持へのトライをしているように思えます。
それを感じたのが22節の京都戦。京都の劇的な決勝ゴールで敗戦を喫してしまいましたが、確実にボールを持ちながら攻撃に出ていくことができていました。そして迎える23節の広島戦。ウェリントン選手の負傷ということもあって、佐藤選手がCFに入っています。
この試合のサンフレッチェ広島は、確実にアビスパ福岡に苦しめられていました。アビスパ福岡はプレスを空転させて下から進んでいくことを行なっていきます。24節の東京ヴェルディ戦。ここでも敗戦をしてしまいましたが、保持の振る舞いを見せています。
佐藤選手が動きを加えなが、CBから下のパスを引き取ったり、スペースを作って重見選手のプレーエリアを確保したり、斜めに岩崎選手が走り込んだり。同サイドに寄せたときには積極的に対角を使いながら相手を押し込んでいっています。またCHの松岡選手と前選手が相手の2ndラインに影響を与えながら段差を作って縦パスを差し込む場面も多く見られるようになっています。3-2の土台で相手を動かしていく方法は保持へのトライにも見えます。
特に広島戦後の長谷部監督のインタビューを聞いてみると、余計にそう感じざるをえません。このタイミングで中断期間に入るのもどこか保持の積み上げを考慮してのトライのように映ります。
能動的な守備に加え、自分たちでボールを動かしながら攻撃を作れるようになってくると、アビスパ福岡が止まらなくなるかもしれません。中断期間明けの彼らのサッカーが楽しみです。
Nobuya Akazawa|J1全部見るマン|
サッカーの楽しさとスタジアムの良さを伝えたるために活動中。
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