前半戦、最後の一戦。上々のシーズン開幕となった柏レイソルでしたが、リーグ戦では4試合勝ちのない状況でホームにサンフレッチェ広島を迎えました。一方のサンフレッチェ広島は9連戦の7戦目。それでもここまでの内訳は5勝1敗の圧巻の成績を残してレイソルのホームに乗り込みました。

お互いに勝利が必須の一戦で、サンフレッチェ広島はかなり苦しんだ一戦となりました。では、なぜサンフレッチェ広島が苦しみ、そして耐え切れたのか。レイソルがどのようにサンフレを苦しめていたのか。この一戦で起こっていたことを振り返ってみましょう!

今回の内容は以下の通りです。
・広島のプレスがハマらなかった理由
・作られた「早さの跳ね返り」
 ↪︎15分間のマルコスマジック
・後半の微調整
・まとめ

広島のプレスがハマらなかった理由とは?

まずサンフレッチェ広島のプレスがハマらなかった理由を考えていこうと思います。サンフレッチェ広島のプレスの基本的なプレス構造は523となっています。1stプレス隊(この試合は大橋選手、ヴィエイラ選手、マルコス選手)でレイソルのセンターハーフ(以下CH)を隠していくことから守備が始まっていきます。

これで外側に誘導しつつ、サイドバック(以下SB)に対してウイングバック(以下WB)を押し出して迎撃、もしくはその次のパスをセンターバック(以下CB)が迎撃してボールを奪い切る形を作り出していきます。

しかしこの試合は柏レイソルの戦い方に苦しめられることになります。なぜ苦しめられたかというと、『WBの数的不利を押しつけられたこと』にあると思います。レイソルはサイドハーフ(以下SH)を内側に絞らせて、SBを押し出すことを行っていきます。こうなってくると、新井選手と東選手(後半から志知選手)のところで数的不利を作られてしまいます。

このような状況を作られてしまうとプレスの基準を広島はずらされてしまいます。しかし多くの場合、このような状況に陥っても広島は内側にポジションを取るSHにはCBが出ていく形をとってプレスをはめ込むことがほとんどです。

ですがこの試合はそれを止められてしまっていました。では、柏がどのようにそれを止めていたのかを考えてみようと思います。

これには広島の2つのプレスパターンがあって、まず1つ目の例を挙げて話を進めていきます。例えば、大橋選手が古賀選手までプレスに出ていくパターンです。この場合はジエゴ選手のところまで新井選手が出ていくのですが、この時に小屋松選手が塩谷選手を止めていることが多くありました。

特にプレスに出る新井選手の背後やサヴィオ選手の対応を行う塩谷選手の背後を伺うことにより、塩谷選手を止めることができていました。


こうするとサヴィオ選手がフリーになることになります。ここへの届け方は古賀選手⇨サヴィオ選手、もしくは古賀選手⇨ジエゴ選手⇨サヴィオ選手となっていました。

このルートが多かったのは、広島のCHのマンツーマンの意識が強かったからだろと思います。だから余計に広島のMF-DFのライン間が広がります。この試合でCH起用された松本選手も加藤選手も『純粋なCH』ではないので、バランスを考えながらカバーのポジションを取るのは難しかったと思います。このポジショニングは一長一短で手にできるものではなく、柏はここを上手く突いた形となりました。

もう1つのパターンとして、ヴィエイラ選手がCBに向かっていく形です。この場合はSBに対してSTが対応する形となります。そうするとWBの選手が内側に絞るSHに対応できそうなのですが、柏のSHがかなり内側に絞っていくこと、センタートップ(以下CF)が変わらず背後を伺ったことによって、プレスを空転させられてしまいました。


このように柏レイソルは「現在のサンフレッチェ広島のCHのバランス」を突きながら、WBに対して「数的不利を押し付ける」ことで、プレスを空転させてサンフレッチェ広島を苦しめていました。

しかしサンフレッチェ広島は、逆転負けをしてしまったマリノス戦から教訓を得て、焦らず耐え切ることに成功したと言っていい試合だったのではないでしょうか。

作られた『早さの跳ね返り』

サンフレッチェ広島は保持の局面でも苦しめられてしまいます。その理由としてやはり柏レイソルのプレスの早さにあると思います。当然、ここでも広島のCHのバランスを突かれてしまうわけですが、CFの細谷選手と小屋松選手のボールサイドへの誘導の仕方が存外に上手いなと改めて感じた一戦でもありました。では、どのように柏は早さの跳ね返りを作り出し、広島を苦しめていたのかを考えていこうと思います。

まず柏はチームとしてWBの対応をSHに行わせることで、最終ラインを動かさないことと3トップに対して4バックで守ることを考えていきます。なぜこれを主軸に置いたかというと、広島はSBの背後を積極的に取っていくチームだからだと思います。

これをまず行っていくことにより、先ほども触れた2トップの守備の上手さと早さを押し出していきます。この試合、細谷選手と最近先発だった木下選手ではなく、細谷選手と小屋松選手だったのは、プレスの早さと上手さを選択したからだと考えます。


こうなってくると困るのがCBの佐々木選手と塩谷選手です。彼らは受け手の近くにマーカーが常にいる状態が見えるので、蹴り出すほかなくなってしまいます。さらに加藤選手も松本選手も前に出ることが多くなってしまっていたので、それが助長してしまったのではないでしょうか。

これによって広島は早く蹴り出すことになってしまい、その早さがそのまま跳ね返ってきて苦しんだ印象を強く受けました。

15分間のマルコスマジック

早さの跳ね返りに苦しみ続けたサンフレッチェ広島。しかし30分辺りで加藤選手とマルコス選手のポジションが入れ替わります。加藤選手がシャドーに入ったことで、彼本来の良さを取り戻します。さらにマルコス選手がCHに入ったことにより、攻撃において大きなメリットを得ることになりました。

そのメリットはなんだったのか。それは「時間の管理」と「プレスの基準をずらす」ことです。


得点シーンを見てもらえるとよく分かると思うのですが、マルコス選手が2トップの脇に降りつつ、SHに影響を与えれるポジションを取っていました。これによって、WBが列を上げて柏SBに対してSTとWBで数的優位を作り出すことができていました。こうなると時間を得れるのが3CBです。広島はここで呼吸できるようになると、一気に保持が安定します。これによって前半残り15分間、確実に自分たちの時間を手にすることができました。

マルコス選手が時間の管理をしたことによって、早さの跳ね返りを防げたことは大きな影響だったのではないでしょうか。

広島の後半の微調整

柏レイソルに苦しめられたサンフレッチェ広島は後半からマルコス選手に替えて志知選手を投入します。この意図として守備強化とCHのバランスにあると思います。さらに柏SHの対応にも微調整を加えていました。


このように1stプレス隊で柏CHを隠すことから守備を始めていきます。そして調整した場所としてCHのタスクです。前半はかなり高嶺選手と戸嶋選手に出ていくことが多かったのですが、ここは1stプレス隊で隠し切って、CHは内側に入ってくるSHの対応が主になっています。これによって、外側に誘導したときのWBの対応がシンプルになっていました。いわゆる「ハイプレスの取り戻し」をスキッベ監督は考えたのではないでしょうか。

さらに志知選手も新井選手もプレスに出る/プレスに出ずに戻るの判断が上手いので、スペースの管理も人の管理も後半はよりできるようになっていた印象です。それでもサヴィオ選手を中心に押し込まれる回数が多くなりながら、さらに柏はSBを押し出すことでWBを押し込むことで、猛攻を仕掛け続けました。

この猛攻を耐え切ることができたのは、守備に比重を傾けたことが大きく関係していると思います。

忍耐と調整によって手にした勝利

かなり内容的にも圧倒されたサンフレッチェ広島。それでも昨季から苦しんでいた決定力を手にし、さらに調整を加えながら忍耐力を見せつけて見事勝利を収めました。柏レイソルも猛攻を仕掛けるためのリスクとチームとしての構造を押し出していましたし、広島からすると本当に苦しい一戦だったと思います。それでも耐え切って、耐え切ってもぎ取ったこの勝ち点3は後半戦に向けて大きな糧になるはずです。

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