オーストラリア・サッカーの育成と言えばオーストラリア国立スポーツ研究所(Australia Institute of Sport、通称AIS)が有名である。マーク・ヴィドゥカ、ジョン・アロイージをはじめ過去のオーストラリア代表選手を数多く輩出するばかりかヨシップ・シムニッチらクロアチア代表選手も同研究所出身であるが、近年は私立学校に通うところからキャリアをスタートさせる選手が増えているという。『Sydney Morning Herald』紙などから最新の事情をお届けしよう。

ビル・ターナー・カップとは15歳以下の選手によるトーナメント方式の大会でNSW、ACTといったオーストラリアに数多く存在する地域リーグの該当チーム400、選手にして6000人!!がぶつかり合う世界でもまれにみるビッグトーナメントである。(ちなみに少女版もあり、そちらはビル・ターナー・トロフィーという名前である。)2013年に優勝したトリニティー・グラマー・スクールは私立学校旋風の代表校の1つである。同校はビル・ターナー・カップ35年の歴史の中で優勝した初の私立学校となった。しかも、公立の名門で知られるボスリー・パーク・ハイスクール、マリバーノング・カレッジ、キャヴェンディッシュ・ロード・ハイスクールを倒しての成果である。

同校を指揮するズラトコ・アランバシッチ氏は元オーストラリアU-23代表選手で1992年のバルセロナ五輪では9番をつけていた。RBC、NACといったオランダのチームをはじめ欧州でのプレー経験も豊富な元プロサッカー選手が日本でいう「中学生」を指揮していることになる。オーストラリア代表60capを数えるジョン・コスミナ(こちらは1988年のソウル五輪代表でもある)がクリスチャン・ブラザーズ・カレッジを率いるなど他校でも珍しいことではない。

私立学校の中には地域やAリーグのチームと関係をもとうとする者もあらわれた。例えば、ニューイントン・カレッジはシドニーFCへ話をしている。奨学金をいかしながら選手を文武両道で育成できるほか、設備やコーチ面などで恵まれた練習環境を用意できるメリットがある。シドニーFCは独自のユースチームを持ち、08/09シーズンにはじまったナショナル・ユース・リーグにユースチームを参加させているがリーグに参加できるのは16-21歳の選手たちでそれ以前の年代の選手達をケアできているわけではないのが実情だ。

2013/14シーズンのAリーグを見てみると私立学校出身の選手が20代後半に差し掛かり脂ののった状態を迎えているのがわかる。2014ワールドカップ代表候補30人もはいったマット・マッカイ(ブリスベン・ロアー)はブリスベン・グラマー・スクールからAISを経てプロサッカー選手になった。アダム・ダプッツォ(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ)は上述のトリニティー・グラマー・スクール出身でレギュラー左サイドバックとしてACLベスト8入りにも貢献している。2014年ワールドカップ代表候補組では他にマッシモ・ルオンゴ(スウィンドン・タウン/ウェーバリー・カレッジ卒)がいる。

イギリスではクラブチームのユース出身のプロサッカー選手が99%で、アメリカは大学、高校といった学校スポーツからのドラフト制度と、同じ英語圏でも各国で違う育成システムを作り上げてきたが、オーストラリアもまたAISを含めて違った育成システムを完成させようとしているのかも知れない。

 

 

マット・マッカイのプレー集

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