【レバンテ戦 ハマった交代策】
レバンテのツインシュートやペルベの劇的アディショナルタイム弾で話題になったこの試合。ビジャレアルは前節とはうって変って前線にペルベとペレイラを置き、これまで成熟させてきた4-4-2の布陣。
レバンテは後方に重心を置き、ブルーノの位置でようやくFWからのプレスが一枚かかる程度で、容易にイニシアチブを握ることが出来た立ち上がりだった。低い位置でボールを貰うことが多いSHのオリベル・トーレスを起点に、ペレイラがボールを受ける動きを見せて誘い出してはその背後をペルベが狙い、SHのカニがトップの位置に入って前線二枚を維持する。また、ペレイラがトップ下のような役割をこなして時間を作り、SBのハウメ・コスタやマリオ・ガスパールのオーバーラップを引き出すなど攻撃の形を早くも見せる展開。さらに前線の二枚はペルベが完全にフィニッシャー以外のタスクを背負わず、器用なペレイラがその周りを衛生的な動きに徹して、中盤での組み立てに参加することで安定したポゼッションを生み出した。
そうしてボールを安心して回せることからボランチのピナとブルーノがフラットなポジショニングを取り、完全にレバンテを自陣に押し込んではカニのスペースメイクを活かしてマリオ・ガスパールやいつもより高い位置に居るブルーノが有機的に絡みサイドを制圧。
サイドを広く使って起点を作ることが多かったビジャレアルのSH陣だが、この試合では引いた相手に対して工夫を見せた。ワイドなポジションを取っていることが多いカニがするすると相手ゾーンに顔を出すことで、楔のパスを引き出し攻撃のスイッチを入れる等、レバンテを崩すためにカニを中心に何度か試みた。しかし、ボールを支配するがスピードアップした後の精度を欠く。
時間が刻々と流れるなか難しい状況を打破できないことから、マルセリーノは後半の頭からカードを切る。ピナに代えて押し込んでいる現状を活かして、チームのゲームビジョンを明確に出来るトリゲロスを投入。ブルーノとのコンビでより中盤の支配を盤石なものにしようという狙いが見えるカードを切った。さらにレバンテが中を固めている為に、オリベル・トーレスの低い位置からのダイナミックな展開力が活かしにくいとみるやアキーノを入れて、空いたサイドをそのまま使って崩そうという意思をチームに伝える采配を採った。この交代策が見事にハマり、アキーノが入った右サイドはSBのインナーランを駆使して活性化。全体的により攻勢を強め、チャンスを演出してレバンテのゴールに近づいた。
それでもネットを揺らすことは無いまま後半アディショナルタイムに突入。このままスコアレスドローかという瞬間にアキーノの突破が相手のファウルを誘い、そこで得たFK。ペルベがレバンテのマークが曖昧なままニアに入り込み、ヘッドで上手く合わせ遠かったレバンテのゴールを抉じ開けた。前節同様、攻勢を再三仕掛けたもののゴールが遠い歯痒い状況が続いていたこともあって、その瞬間選手達に負けないぐらい喜びを爆発させたマルセリーノ。
ストライカーがもたらした待望のゴールは小さなスタジアムを揺らした。そして指揮官の采配が的中した勝利であった。
長いシーズンを闘う上で、一つのシステムを軸に対戦相手によって変更することも厭わない柔軟性とその都度微修正を加える智将の采配が際立った二試合と言えるはずだ。
さて、このまま勝ち点を積み上げれば、必然と欧州への挑戦権が得られる。来季、欧州の舞台に立てた際に、今季のCLやELで躍動しているリーガ勢のように続けるかは非常に興味深い。経験不足な若手主体のチームでお世辞にも選手層が厚いとは言い切れない〝黄色い潜水艦〟であるが、マルセリーノと共に暴れる姿を見せて欲しいものだ。
筆者名:古家政夫
プロフィール:初めてフットボールに触れたのは98年仏W杯から。Jリーグ、プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、セリエA、エール・ディヴィジを観戦する日々を送る。各リーグに好きなクラブが存在する為、困ったことに『心のクラブ』が一つではない典型的なミーハーを自負する。
ツイッター:@505room