一週間経たないうちにスワンズとまた試合。もちろん言うまでもなくリベンジマッチである。コラムにはしていないがFA杯でスワンズに敗れたユナイテッド。しかも本拠地での失態を二度繰り返すことは当然許されない。しかし前半は押され気味に進んでいった。

【意図とポゼッション】

前半はいいようにスワンズにボールを動かされた。バイタル付近での出し入れにエブラの裏など、スワンズとしては狙い通りだっただろう。私がユナイテッドを相手にするマネージャーだとしてもエブラの裏は狙い所だと思っている。ラウドルップはしたたかだった。意図したポゼッションで意図した通りに試合を進めていたスワンズ、対してユナイテッドは意図しない流れに身を委ねていた。

前線の組み立てはルーニーに依存している。不在時の攻撃のパターンはより個人技中心にならざるを得ないユナイテッド。前半はヤヌザイを中央に、香川を左に置いたが、ヤヌザイは時折キラリと見せるプレー以外は相手を背負って窮屈そうにしていた。香川もまた左サイドを切り裂くことはなく、ゴールから遠い位置でもがいていた。良いプレーが無かったわけではないが、やはりいい形でボールを持ってナンボの2人、スワンズに狙い通りにボールを動かされては、カウンターに転じてもなかなかいいボールが入ることはない。

ユナイテッドとしては意図した形ではないだろう。現実流れはスワンズにありユナイテッドは後手にあった。「意図、意図」言っているが、ユナイテッドがスワンズよりポゼッションを上げればいいのか、というとそうではない。意図してポゼッションすることにこしたことはないが、意図しないポゼッションを強いられて苦戦するくらいなら、極論意図した引き篭もりの方がマシだ。意図や狙い無くしてフワフワとピッチの上でプレーするもの程見難いものはない。もちろんフレキシブルに状況に応じたプレーが出来るのならば話は別だが今のユナイテッドには難しい。目的はゴールを奪い勝ち点3を得ること。意図しない行き当たりばったりなプレー続けることは余計な疲労を生み、相手に恐怖を与えない。勝利を目指すのであれば、ピッチの上に明確な意図や狙いが必要だ。ポゼッションし続ければ失点することはないが、意図しない形でボールを保持しても意図しない形でボールを失うリスクがある。バルセロナはこの点素晴らしいが、あまりの素晴らしさに劣化コピーを世に沢山生み出してしまった。

以前から何度も指摘しているが、ポゼッションするのはいいがゴールと勝利がなければ意味が無い。そのための方法としてのポゼッションである。ポゼッションするまでを整えてもその先がなければ何の意味もないのだ。ポゼッション病に毒されたものは何人もいるが、個人的にはサー・アレックス・ファーガソンもその1人だった様に思えるし、デイヴィッド・モイーズにもその傾向がチラチラ見てとれる。

ルーニーやファン・ペルシーが戻って来るまでは仕方ないのかもしれないが、最低限誰をどの様に生かすのか、という狙いをはっきりさせておくべきだった。自分たちの良さを出すのか、相手の良さを消すのか、はたまた両方狙うのか、という点も明確にすべきだった。前半、ピッチの上で表現されたものはアバウトだったからだ。

【やりたいことを全力でやるためにはやりたくないこともやらねばならない】

守備を率先してやりたいものはあまりいないだろう。誰だってボールを持っていたほうが楽しいし安心するはずだ。だが攻撃をするためには守備をしなければならない。当たり前のことだが、単にボールを奪い攻撃に転ずるといったことではない。どこでどの様に守備をしてボールを奪い、どのような形で攻撃に転じ、意図した形に持ち込んで攻め込むか、ということは最低限考えなければならない。守備で後手に回ることで攻撃に転じるときも後手の状態が続くのだ。意図した形で攻撃に移れないので、必然的に攻撃に転じても先手を取れずにいい形にならない。攻守で後手に回ってはゴールが遠いのは当然である。もちろん不確実性の強いフットボールでは意図しないゴールやプレーで流れが一気に変わることも珍しくはないが、不確実性が強いからこそ、理詰めで意図したプレーを実行する必要がある。

ドルトムントは意図した守備を徹底することで意図した攻撃に転じるのがとても速い。相手に応じて柔軟に対応することも可能だ。クロップの凄腕っぷりはここに見られる。香川真司はこのスタイルだからこそ輝いたといっても間違いでは無いだろう。意図した形でボールを奪い、意図したポジションで意図したボールが足下に入れば香川のスキルは相手にとって脅威だ。モウリーニョが初めにチェルシーを率いた時も練りに練られた守備からカウンターへの切り替えの速さがとても速かった。ヒディンクもそうだった。もちろんバルセロナもそうだ。彼らは意図した攻撃を行うためにはまず意図的にボールを奪う必要があると考えている。もちろん監督によってやりかたは様々だが、やはりグアルディオラが見せたそれは美しい完成度だったことは今でも覚えている。意図した攻撃を行う為には意図した守備は避けて通れないのだ。

当たり前のことだがなかなかこれが難しい。選手の特性によってできるできないなど向き不向きなどいろいろな問題が出てくる。ただしそれでも意図した攻撃を行ってゴールを奪うには必要なのだ。誰が出てこようともなるべくクオリティに差の無い守備ができなければならないのだ。そこを徹底出来るか出来ないかで、タイトルに近づけるかどうかが決まる。

意図を持って狙い通りにプレーできれば判断も早い。ポイントが絞りきれていれば、無駄に走ることもなく疲れにくい。意図した攻撃をしかける為には意図した守備が必要なのだ。システマチックな守備はファーガソンのころに見られたかと言えばそうでないことのほうが多かった。ただ、クリスティアーノ・ロナウドが輝いたシーズン、とにかく全員で守り奪ってクリスティアーノにアタックさせることはピッチの誰もが分かっていたし徹底していた。彼を生かすことが相手にとって恐怖であり、ユナイテッドにとって勝利の方程式だったからだ。クリスティアーノが去ってルーニーがワントップで戦ったシーズンもそうだった。ルーニーは満身創痍のシーズンだったが、明確なルーニーシフトは明確過ぎる意図であった。相手も絞りやすいが、生かすタレントの絶対値が相手のそれよりも大きければ上手くいくことの方が多い。

モイーズは攻撃よりもまずは守備から手を付けるほうが速いだろう。ギグスだろうと誰だろうと特権は与えずハードワークだ。ハードワークせずに勝てるリーグと相手ばかりではない。

【香川とヤヌザイ】

前半と後半でポジションを入れ替えて流れをひっくり返したこの2人。共に身体の強さはないが、持っているスキルに間違いない。ヤヌザイはパスも出せるし自分でもある程度いけるが、やはり相手を背負ってしまうと身体の弱さもあってなかなか先手を取れない。香川は基本的には生かされるタイプだ。意図のない攻守の中で香川は必死にもがいている。主力不在やメンバーの兼ね合いで無理に生かす側に回ってプレーしなければならなかったりもしている。後半にはバレンシアを強引に裏に走らせるなどしていた。彼らのスキルがすべてに発揮されたとは言えないが、後半のポジションが互いにとってベストだろう。香川はトップ下、ヤヌザイはウィング。持ち味を発揮してユナイテッドは後手後手の攻守から脱却に成功し、先手を取って流れを掴んだ。

もちろん相手がスワンズだったからこそ出来たことかもしれない。リーグのテーブルでユナイテッドより上にいるクラブ相手にはまだまだ厳しいだろう。ただし、彼らがより意図した形でボールを持ち動かせることができれば、これまでのユナイテッドに見られなかったパス&ムーブが見られるかもしれない。若い二人の未来を考えれば明るい事の方がいい。

ルーニーとファン・ペルシーの復帰がそろそろだと報じられている。二人の出番はこれまで通りにいかないかもしれないが、この世界トップクラスの主力二人を食って掛かるくらいの気持ちでなければ輝かしい未来が訪れるかは分からない。共存とリスペクトは必要だが、まずはチーム内の競争に勝たなければならない。それは香川とヤヌザイだけではなくウェルベックやチチャリートにも言えることだ。空回りは禁物だが、賢くプレーし過ぎるよりもフルスロットルでプレーすることが今のユナイテッドには必要なのだ。昨年のタイトルは過去のもの。昨シーズンの王者という称号は今シーズンに有利に働くことはない。堂々とプレーすることと慢心することは違う。過密日程が続こうとも、全力でプレーしなければ勝ち点3は簡単に手に入らない。それがユナイテッドの今の現状だ。

久しぶりにミッドウィークに試合がない。少し休んで次はチェルシー戦。香川にとって小学生55人よりもプレミアの選手3人のほうがゴールを割るのは難しいらしいので、週末はチェフとは一対一になるしかない。そのような場面が訪れることを願ってビールを買い込みにいこうじゃないか。ハッピーワン相手に上げる祝杯はさぞ美味いことだろう。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッタ ー:@db7crsh01

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