バイエルンはパブリックエネミーである。ドイツではバイエルンファンとアンチバイエルンでフットボールファンは二分されると言われている。ここ日本でもバイエルンのネガティブキャンペーンは進んでいるように思われる。何しろ日本のエース香川真司が所属していたドルトムントのライバルであるのだから、マスメディアがヒールとして扱うのも当然なのかもしれない。
そこで今回このコラムのテーマはレヴァンドフスキ移籍である。この原稿を書いている1月3日時点で移籍は決定的と言われている。半年以上前から取沙汰されてきているニュースなので、多くのフットボールファンはやっとかとお思いになる方が多いだろう。しかしこのニュースに関してはもっと批判的かつ懐疑的に見る必要がある。なぜならレヴァンドフスキは本当に必要とされているか疑わしいのだから。
バイエルンのチーム状況から考えてみよう。今季はペップを招聘し、新たにゲッツェとティアゴという中盤のテクニシャンを迎え入れ、FWの存在価値は下がっていると言える。まだまだ嗅覚衰えぬピサロの出場機会は皆無である。それどころか昨季絶対的エースとしてハインケス前監督に重宝されたワーキングストライカー、マンジュキッチはCL決勝のスコアラーでありながら、現在重要な役割を任されているとは言い難い。ペップもマンジュキッチのエゴイストな性格を考慮し、連続してスタメンから外すということはしないが、心なしかピッチの上のマンジュキッチは得点を決めたときでさえ幸せそうな表情を見せていない。すなわち今のバイエルンはFWを必要としていない。ストライカーやボールキープに長けた選手は揃っているというわけだ。
このように上層部と現場で若干のずれが生じていると言える。しかしこのようなことはバイエルンにとって初めてではない。選手のレベルが違うことは否めないが、シュラウドラフ(現ハノーファー)やキルヒホフも今回とほぼ同ケースでチームに定着することなく放出されている。(キルヒホフはレンタルでシャルケへ移籍)
果たしてペップはこのレヴァンドフスキについてどう考えているのだろうか。ベッケンバウアーは「マンジュキッチより優れている」などのコメントを残しているものの、ペップに関してはレヴァンドフスキのクオリティに疑問を持っている、といったことや一緒に仕事をするのを楽しみにしているなど正確とは言えないような様々な情報が飛び交っている。
そもそもなぜレヴァンドフスキ自身バイエルンに移籍する必要があるのか。ドルトムントからバイエルンへの移籍は大多数の人がステップアップと認めるとは考えづらい。そうなるとレヴァンドフスキ本人の個人的な意思ということになってくる。レヴァンドフスキはドルトムントがタイトルを保持しているとき、つまりバイエルンが三冠を獲得する前から「バイエルンに行きたい」と公言している。恐らくペップの薫陶を受けたいということやもしくはポーランド出身の選手として近隣のビッグクラブとしてバイエルンへの憧れ、給与などであったのかもしれない。この移籍をつき動かしているのはもはやこのようなものだけである。そして来る者拒まずのバイエルンが獲得に乗り出したと言える。
多くの場合、このようなときは選手もチームも幸せにならない。しかし今回のパターンではレヴァンドフスキというワールドクラスの選手にペップという稀代の戦術家、一定の成功を収めることはほぼ間違いないだろう。しかし得るものより失うものが多く、不必要な移籍だったと言われる可能性も秘めている。
筆者名:平松 凌
プロフィール:トッテナム、アーセナル、ユヴェントス、バレンシア、名古屋グランパスなど、好みのチームは数あるが、愛するチームはバイエルン。
ツイッター: @bayernista25