ここ近年のスパーズはCL出場権争いに絡んでおり安定した成績を残している。それでもユナイテッドにとっては変わりなくお得意様感が強い相手ではあった。しかし勝ち切れない。チャンピオンズリーグではすんなり勝ったもののリーグ戦では引き分けが続いてしまった。ブンデスリーガの2位よりもプレミアリーグの9位の方が非常にやりにくかったのは確かだ。

ヴィディッチが復帰、香川がトップ下に入り、ウェルベックが左に入る形から試合が始まった。ベイルという飛び道具が抜けたものの強力なタレントが中盤に揃うスパーズ。贔屓目に見たとしてもセンターハーフだけの個々のクオリティで見るとスパーズに分がある。

15分を過ぎた頃に嫌な位置でFKを与えてしまい、蹴るのはカイル・ウォーカー。かなり威力のあるキックを持っているのはベイルがいた昨期からも分かってはいた。見事壁がジャンプした下にドスンと蹴りこまれ先制されてしまう。

【ビルドアップとマッチアップ】

キャリックが欠場している関係で前節同様ビルドアップに苦戦すると予想していたが、予想以上にここを狙われて試合はスパーズペースで進んでいった。クレヴァリーとジョーンズのセンターハーフコンビでは、サンドロ、パウリーニョ、デンベレ相手には分が悪い。ジョーンズは組み立てるタイプではなく、クレヴァリーもビルドアップやゲームメイクのスキルに長けているわけではない。となると香川に期待がかかってくるのだが、スパーズは丁寧に香川を抑えていた。

ビルドアップに関してはジョーンズがボールを持ってもスパーズとしては怖くない。逆にクレヴァリーから細かく繋いて前に出て行かれると、香川も絡んで高い位置でボールを回される可能性があるのでスパーズとしてはあまりいいことではない。そのためスパーズはクレヴァリーに強めにチェックにいき、簡単に前に出させないことで香川へのパス供給も弱めた。仮に香川へのパスが出たとしても出させたパスが多く、ほぼ足下へのパスなのでデンベレにタイトに付かれた香川は、トップ下ではほとんど思った仕事ができなかった。

ウェルベックもバレンシアもパスが上手くはない上に両足巧みに使える選手ではない。また広いスペースがあってナンボの選手であり狭いスペースで生きる選手でもない。そのためウィングの位置から中央に出すパスは得意なものではなく、パスよりも自らのドリブル突破がファーストチョイスになっている。香川がトップ下にいてサポートにいってもパスが出ないor出ても香川の欲しいタイミングであることが少ない(加えて香川が求める精度でもない)ことがほとんどなことを考えれば、スパーズは香川に縦に繋げるクレヴァリーを消し、デンベレが香川に対してタイトに付くだけでユナイテッドのビルドアップを大きく阻害することに成功する。

更に加えるとすればサイドバックがビルドアップに貢献出来ないことも響いていた。スモーリングにビルドアップを求めることがそもそも酷ではあるのだが、サイドバックから香川に直接ボールが入ることもあまりなく(香川があまりポジションをあまり下げなかったこともあるが)、スパーズとしては絞りやすかったはずだ。香川は非常に優秀な「レシーバー」であるが故、「パサー」の質と数に大きく左右されてしまうことは、ドルトムント時代と比較しても明らかである。この日、香川を生かせるパサーは彼よりも前にいたルーニーだけであった。

【持てました。で、その先は。】

ウォーカーのアシストもあってスコアを戻したユナイテッドであったが、流れを取り戻すために4−2−3−1から4−4−2に形を変えてビルドアップを改善させた。 簡単に言えば、香川がトップ下では分が悪いのでサイドに移してデンベレが追えない位置に置いたことになる。エブラがレノンに手を焼いていたことと、逆サイドのバレンシアがあまりにもキレキレであったので、香川がボールに絡む必要性はあまり増えていかなかった。

香川はデンベレの監視下から逃れ、低い位置でビルドアップを補助した。これにより後半はポゼッションを握ることになった。スパーズのラインが明らかに下がっていたことは試合を観ていた方ならおわかり頂けるはずだ。サンドロのスーパーなミドルシュートで失点するものの、5分しないうちにカウンターからPKを獲得し再びスコアを戻した。

問題はここからだった。後半にポゼッションを握ったユナイテッドだったが、ボール持てども崩しきるには至らない。互いにカウンターからは決定機を演出したが、流石にボールを持っているユナイテッドがいまいち攻めきれていないのは明らかだった。押し込めどもバレンシアに頼る比重はさほど変わらず、徐々にケアされつつあった中でアタッキングサードでのアクセントがもう一つ必要だった。

ボールを失わなければ確かに失点はしないが球離れがスムーズでなく、先手を取るパスを選択しないうちにリズムが整わなくなり、逆にスパーズにズレを生ませない時間と余裕を与えていた。パスで手数をかけるうちに、どこから攻めるのかを伺いすぎてあやふやになっていったようだ。

どこで誰がスイッチを入れるのか。香川にこの大役が降りてくればいいのだが、そこまでのディテールをチームで詰めているようには見られなかった。逆に押し込んでスペースが潰れたことで高い位置の選手はこの役割をこなすのが難しくなってくる。そうなると必然的に三列目、つまりはセンターハーフの選手が合図となるパスを入れることが求められる。残念ながらクレヴァリーにこの仕事を求めるのは難しい。小気味いいパスは繋ぐものの舵を取るようなパスを出すには至っていないからだ。また、バレンシアもこの日イマイチだったウェルベックもスペースがあって生きる選手であるので、ポゼッションしたことで逆に良さを生かせなくなってしまった。

【勝ち切るにはなにが必要なのか。】

アウェーにまで顔を出すベストセラー作家、サー・アレックス・ファーガソンの頃なら勝っていたよな、という声があることは何も隠すことではなくそのとおりだろう。勝ち点3が1になることはリーグのタイトルを取るためには致命的である。

勝ち切るには何が必要なのか。ということを残り半分以上あるシーズンを通じて探していくしかないのだ。それが選手の成長なのか、新しい選手なのか、戦術なのかは神のみぞ知るところである。結局のところ、コツコツと積み重ねること意外に近道はない。開幕から今までの試合も積み重ねだ。じっくりと待とうじゃないか。


筆者名:db7

プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
ツイッタ ー: @db7crsh01

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