満を持して帰ってきた。

彼の名はハビ・マルティネス。ホッフェンハイム戦のスターティングメンバー表にはその名前があった。元々ペップがバルセロナの監督時代から獲得報道が出るほどお気に入りの選手という認識を筆者はしているが、フォーメーション表を観ればペップが考えを改めていることがうかがえた。プレシーズンではCBの戦力として計算しており、恐らくバルサ時代もそのような考えだったのだろうが、この日彼の名前があったのはワンボランチのアンカー、スペイン風に言えば「ピボーテ」であった。これはバイエルンファン待望の形であったと言えよう。マルティネスが怪我で離脱している間、シュヴァインシュタイガーやラームがアンカーを務めていたが、、前者は一人でDFラインの前に立ち塞がるには守備範囲が狭く、後者はシンプルに本職ではなくRSBのほうが輝けるはずである。そこでファンがグスタボを懐かしんでいたのも今は昔。マルティネスは戻ってきてしっくりはまったのである。試合こそ拮抗して難しい試合となったが彼がファーストチョイスとなる可能性は低くないだろう。

ここまで前置きが長くなった。マルティネスがどうということを論じたいのではなく、バイエルンの微妙なスタイルの変化を分析する。主にビルドアップについてである。

ペップがバイエルンに来た時最初に導入したバルセロナ色もここであった。

プレシーズンから開幕当初まで自チームのキーパー(ノイアー)がボールを持ったとき両CBが大きく開き、いわゆるピボーテが下りてきて3人でボール相手のプレスをかいくぐるというものに挑戦していたが、バルセロナの選手ほどのパス技術を持たないバイエルンの選手たちが行うそれは拙く、またリーガエスパニョーラの下位チームよりも鋭いカウンターを持つブンデスリーガ下位チームによってそれは微調整を余儀なくされた。

次の段階では両CBは大きく開くことをやめ、ピボーテもときに落ちてきてコンパクトな3バックを形成するか両CBとピボーテで正三角形を作りビルドアップをするというものに変化した。これによって仮にボールを奪われてもカウンターで中央をぶち抜かれるということはなくなった。またシャビが「ピボーテというポジションでもラームは世界一になれる」と絶賛したラームのピボーテは非常に気の利いたものであり、自分の一列前にいる優れたタレントたち(ゲッツェ、ミュラー、クロース)に正確なパスを配給しながらも、本職がSBなので守備でも身体を張れるという本家のブスケッツに負けず劣らずのものであった。強いて弱点をあげるならば、国内リーグでは盟主バイエルン相手に下位チームはボールを放り込んでくるので、その空中戦やセカンドボールのフィジカルコンタクトで後手に回ってしまうことだろうか。とは言えグアルディオラも「私が教えた中で最もインテリジェンスな選手だ」と讃えたラームのユーティリティ性には舌を巻くのみであり、お役御免でRSBに戻っていただこう。

ここで本コラムの冒頭に戻るわけなのである。バイエルン待望の大型ボランチ復帰である。

ハビ・マルティネスならばラームのようなサイズの問題は起きない。しかしラームほどショートパスやミドルパスの精度は高くないと言える。勿論スペイン代表なので標準的に見ればかなり高いと言えるが、ペップが求めている理想は更に高く、名レシーバーゲッツェにミリ単位のパスを届けるのに彼では少し役者不足かもしれない。そこでペップはビルドアップのディティールを更に微妙に進化させた。それはマルティネスが前任者ラームほどは下に落ちず、CBと二等辺三角形を作る。これによってマルティネスと前線の距離はそれほど離れず、先ほど述べた問題が起きづらい。更に興味深かったのはダンテやボアテングがボールを持って上がる回数が明らかに多かったことである。これはマルティネスのパス出しだけに頼るのではなく、元々CBとしては相当な足元の技術を持つダンテやボアテングが上がることで相手のプレスに的を絞らせない効果がある。さながら三本の矢のようである。当然ダンテもボアテングもハビ・マルティネスも純正なMFと比べるとテクニックでは見劣りする。しかしそれが3人いれば話は別である。お互いがお互いのマークを軽減し、「折れづらく」しているのである。

まだまだペップが求める完成は遠いのかもしれないが、3本の矢が勝ち点3に一役買う回数は多そうである。


 

筆者名:平松 凌

プロフィール:トッテナム、アーセナル、ユヴェントス、バレンシア、名古屋グランパスなど、好みのチームは数あるが、愛するチームはバイエルン。
ツイッター: @bayernista25

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