タタ・マルティーノがバルセロナの監督に就任してから、ボールポゼッション率の低下が叫ばれている。
今季リーガ第5節に行われたラージョ・バジェカーノvsバルセロナの一戦では、2008年5月7日以来315試合破られることのなかった記録が破られた。ポゼッション率で相手チームを下回ったのだ。実に5年以上に渡ってボール支配率で相手を上回り続けたバルセロナだったが、この試合ではラージョの51%に対してバルセロナは49%とわずかながらに下回った。しかしスコアでは4-0と快勝。実に不思議な数字である。
また、CL第2節セルティックvsバルセロナの一戦では全く逆の結果を目撃した。この試合バルセロナはセルティックの組織的な守備に阻まれなかなか守備網を崩すことができず、ネイマールを起点としたカウンターからセスクの得点で辛くも勝利した。シャビも「おそらく今シーズン最も厳しい試合だった。」と述べたこの試合、スコアこそ1-0だったにも関わらずポゼッション率は72%と圧倒的にボールを支配した。ラインを低めに保ちカウンターに徹するのはバルサ対策の典型であり、ポゼッションに対して得点が伴わないことはよくあることだが、上記のラージョ戦とは真逆の結果となった。
そこで今シーズン行われたCL第2節終了時点での全11試合の結果とポゼッション率を表にしてみた。ここから1つの興味深い点に気付くことができた。
リーガ第1節レバンテ戦を除きほぼすべての試合である規則性を見出すことができる。それはポゼッション率が上がるにつれて苦戦をしているという点だ。逆に言えば結果の良かった試合ほどボールを支配できていないと言うこともできるだろうが、いずれにしてもタタ監督下の特徴であることには変わりはない。下記の表ではポゼッション率の高かった順に並べなおしたので、上記の点に注意して見てほしい。
ポゼッション率とスコアの関係を見てほしい。最もポゼッション率の高かったスーペルコパ2ndレグアトレティコ戦ではスコアレスドローに終わっているが、ポゼッション率を相手に上回られたリーガ第5節ラージョ戦では今季ここまでで最も良いスコアで勝利を挙げている。
なぜこのような現象が起きているのだろうか
DFアドリアーノのコメントにヒントが隠されているように感じた。彼は「マルティーノ(監督)は何も変えようとはせず、いくつかの点を修正するだけ。私たちによりダイレクトにプレーするように求めてくる。」と述べている。バルサは好調時こそ見事なパスワークで相手の守備網を崩していくが、相手に引かれた場面などでは後方でパスを回すだけとなり、カウンターの場面では攻撃を遅らせる足枷となってきたこともある。コメントにあったいくつかの修正点とはまさにこの必要以上のパス回しのことではないか。監督はより縦方向への攻撃の意識を求めており、この点を修正するために選手たちによりダイレクトなプレーを求めたと考えることができる。
結果としてポゼッション率の低さはチーム戦術が浸透している証拠だろう。もちろんチームの基本スタイルはボールを支配することに変わりはない。ボールポゼッションを高めて試合の主導権を握る。これがバルサの哲学であり、この哲学を実現できる監督としてタタ・マルティーノが選ばれた。しかし監督はこの哲学を踏襲しながらも改善点を修正し、自らの色をチームに投影した結果として、パスワークを重視しながらも縦への意識のより強いチームを作り上げた。それがあの一見矛盾したような数字を生み出したのだろう。
ポゼッション率の高かった試合では何が起こっているのだろうか。CL第2節セルティック戦のように相手の守備戦術が優れていた場合や、チーム内での意識の不一致などが原因となり改善点が修正されず、素早い攻撃が実行できなかった結果と言えるだろうか。リーガ開幕7連勝のクラブ記録を樹立した今季のチームに意識の不一致は考え難いが、シーズンが深まるにつれバルサ対策はより鋭さを増すだろう。セルティック戦のようにスペースを埋め、ダイレクトなプレーを妨げることがバルサ対策として有効だと判断された場合には、多くのクラブが同様の戦術を敷いてくる可能性が考えられる。その場合ポゼッション率だけが上昇し、スコアの芳しくない試合をこれからも目にすることになるかもしれない。どのように対策を打っていくかは監督の腕の見せ所だろう。
ポゼッション率低下についての議論はこれからも続いていくだろうが、支配率の低さがチームにとって必ずしも悪いサインではないのかもしれない。引き続き今後の試合でのスコアとポゼッション率の関わりを見ていくことで、タタバルサの新たな特徴を発見することができるかもしれない。
筆者名:小川裕一
プロフィール:試合全体の流れだけでなく選手個人に注目したい。FCバルセロナを中心に書いていきます。あまり現地観戦しませんがロンドン五輪をウェンブリーで見ました。自称クレのバルサ好き。
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