伝統的に「キックアンドラッシュ」を重用するクラブが多いプレミアリーグだが、近年は「キックアンドラッシュ」ではなく、“ポゼッションサッカー”を展開するクラブが増加傾向にある。

特に上位のクラブでは、最終ラインから丁寧にパスをつなぎ、前線のテクニシャンたちがフィニッシュを担うスタイルが主流であり、中盤を省略するロングボール主体の戦術である「キックアンドラッシュ」はなかなかお目にかかれない代物だ。

だが、バルセロナ、スペイン代表が標榜する“ポゼッション重視”のスタイルが徐々にイングランドでも浸透しつつある中、伝統の「キックアンドラッシュ」を武器に戦うクラブはまだ存在する。そのクラブこそ、今回の主役であるストーク・シティ(以下ストーク)である。

・ストロングポイントを全面に押し出して

ストークを率いて7年目となるトニー・ピュリスが志向するスタイルは、強固な守備ブロックをベースに、ロングボールとサイドアタックで攻め込む「堅守速攻」。ピュリスら首脳陣は、このシンプルかつ効果的な戦術に適合しうるタレントを積極的に補強し、「戦う集団」を作り上げている印象だ。

「ハードなディフェンス」からの「ロングカウンター」をストークに植え付けたピュリスだが、彼が好むタレントの条件として「高身長でフィジカルが強いこと」が挙げられる。ロングボールの収め所兼フィニッシャーのピーター・クラウチ(201cm)とケンウィン・ジョーンズ(187cm)、ハードなタックルで相手FWを封殺するセンターバックのライアン・ショウクロス(191cm)、ロベルト・フート(191cm)らがその代表格であるが、“小柄なテクニシャン”が増加傾向にあるプレミアリーグにおいて、彼らの圧倒的なフィジカルの強さは群を抜いている。

また、「90分通してチームに貢献できる勤勉さ」もピュリス好みであり、常にセカンドボールを拾い、前線からのプレスを惜しまないジョン・ウォルターズ(183cm)、ハードワークと切れ味鋭いドリブル突破が自慢のマイケル・カイトリー(173cm)、反則すれすれのハードタックルで中盤を引き締めるディーン・ホワイトヘッド(183cm)、精力的なアップダウンでサイド攻撃を活性化させるサイドバックのアンディ・ウィルキンソン(180cm)らがチーム戦術を支える。

更に、「ロングスロー」を効果的に活用するストーク独特の戦法もこのチームの魅力のひとつだ。この戦法はテレビ朝日で放送されている『マツコ&有吉の怒り新党』内の「新・3大○○調査会」というコーナーにおいても、「新・3大ロリー・デラップの人間発射台」として紹介されたため、既に知っているサッカーファンも多いのではないかと思われるが、下の動画のように幾多のチームがその餌食となっている。ストークの本拠地であるブリタニア・スタジアムでは、ボールボーイがボールをタオルで軽く磨いてからデラップに手渡す光景が名物となっていたのだが、残念なことに、冬の移籍市場でデラップは2部のバーンズリーに移籍(形態はレンタル)してしまった。だが、『怒り新党』でも触れられたように、デラップの後継者であるユース出身のライアン・ショットン(191cm)が新たな『人間発射台』として頭角を現しているだけに、今後もこの戦法は十分威力を発揮するだろう。

・独自のスタイルを貫く偉大さ

07/08シーズンにプレミアリーグへ昇格して以来、毎シーズン10位前後の順位で残留を決めているストークだが、今シーズンも第26節が終わって10位と“定位置”をキープ。自分たちの確固たるスタイルを軸にしぶとく戦う彼らは、プレミアリーグで確固たる地位を築きつつあると言えるのではないだろうか。

冒頭でも触れたように、近年のプレミアリーグでは以前よりも“ボールポゼッション”が重要視されている。その流れはスウォンジーのような中堅クラブでも顕著となっており、、「キックアンドラッシュ」を用いてしぶとく勝ち点を稼いでいくストークのようなクラブは希少価値が高い。もちろん、ストークのスタイルを「時代遅れ」と形容することも可能であり、『ストーク絡みの試合はなかなかスコアが動かない』と揶揄されることも少なからずある。だが、筆者は時代の流れに左右されず、独自のスタイルを貫き通すストークに無意識の内に声援を送ってしまうことが多い。それは、ストークの選手たちに「男気」を感じるからであり、ウォルターズのようなハードワーカーに心を動かされているからなのだ。個人的には、なかなか勝ち星に恵まれない時期が続いても、自分たちのやり方を曲げないストークにはもっと称賛の声が集まっても良いと考えているが、上位クラブのテクニカルなサッカーだけでなく、ストークのような独自路線を歩むクラブにも注目しながら、残り少なくなってきた今シーズンのプレミアリーグを楽しむのも一興だろう。

2013/2/15 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。

 

筆者名 ロッシ
プロフィール エル・シャーラウィ、ネイマール、柴崎岳と同世代の大学生。鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援しています。野球は大のG党。
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