今回の当コラムでは、”これからのサッカー界”についてあれこれ語っていこうと思っているのだが、2013年2発目のコラムがこのようなタイトルということで、若干の猜疑心を持ってしまった読者の方もいらっしゃるだろう。だが、内容はいたって真面目なので、安心していただきたい。では、早速私見を述べていきたいと思う。
・トレンドは「ポゼッションサッカー」と「二列目の創造力」
近年のバルセロナ、スペイン代表の活躍ぶりは大変目覚ましい。特に、スペイン代表はEURO2008、2010年W杯南アフリカ大会、EURO2012のいずれも制覇し、前人未到のメジャー大会3連覇を成し遂げたが、ショートパスを何よりも重視し、常にゲームの主導権を握って戦う彼らのスタイルが国際大会で結果を残したことによって、現代のサッカー界では、「ポゼッションサッカー」がトレンドとなりつつある。
この流れはクラブチーム、ナショナルチームを問わず顕著となり始めている。具体例としては、ミカエル・ラウドルップ新監督の下、昨シーズン同様にプレミアリーグで旋風を巻き起こしているスウォンジー、ロベルト・マルティネスが構築した独自の3バックシステムで注目を集めるウィガン、EURO2012でポゼッションを高めた新スタイルを披露したイタリア代表などが挙げられるが、今シーズンもリヴァプールがスウォンジーを躍進させたブレンダン・ロジャーズを招聘してポゼッションサッカーに舵を切り、イタリアではフィオレンティーナがヴィンチェンツォ・モンテッラ新監督の下でポゼッション重視のサッカーを展開するなど、この流れは加速気味だ。また、ともに途中で頓挫してしまったが、チェルシーとローマもこの流れに乗ろうとしたように、「ポゼッションサッカー」への注目度はかつてないほど高まっている。
そして、上記したチームほど徹底した「ポゼッション重視」ではないにせよ、「二列目の創造力」を生かして相手を崩すスタイルを実践するクラブも増加傾向にある。昨シーズンのプレミアリーグを制したマンチェスター・シティではサミア・ナスリ、セルヒオ・アグエロ、ダビド・シルバらのコンビネーションが大きな武器となり、今シーズンのチェルシーでもエデン・アザール、オスカル、フアン・マヌエル・マタらの流動的な崩しが相手DFを混乱させている。この2チームでは、「二列目」のポジションは”有って無いようなもの”であり、流動的な動きが鍵となっているのだ。また、ワイドアタックが伝統のマンチェスター・ユナイテッドもドルトムントから香川真司を獲得し、香川をトップ下に据える新たなスタイルを模索している。香川が負傷離脱し、この計画は一旦お蔵入りとなったが、年明けに香川が復帰したことによって、サー・アレックス・ファーガソンは再び新スタイルの構築に着手するはずだ。
・これからは「小柄なテクニシャン」の価値が上昇する
ここまで例に挙げてきたクラブの「ポゼッションサッカー」、「二列目の創造力を生かすスタイル」を支えているのが「小柄なテクニシャン」たちである。例えば、バルセロナ、スペイン代表の両方で根幹を担っているチャビとアンドレス・イニエスタはともに170cmと小柄であり、前述したシルバや香川、アザール、マタらも170cm前後の選手たちだ。
「ポゼッションサッカー」、「二列目の創造力を生かすスタイル」で彼らが重宝されている理由の一つに「大柄なDFを手玉に取ることができる」ことが挙げられる。彼らの他を圧倒するボールテクニック、小回りが利くドリブル、俊敏性といった武器が相手DFを混乱させ、決定的なチャンスを演出するのだ。
また、近年は『どのようにバイタルエリアを攻略するか』が攻撃側のテーマとなっているが、イニエスタ、シルバ、香川といった選手たちは、相手DFのプレッシャーを最も感じる「バイタルエリア」でボールを失うことがほとんどない。そのため、常にチームの「攻撃のスイッチ」として機能することができ、(かつての「10番」タイプとは異なり)「試合から消える」ことも稀である。また、単独突破よりも周囲と連動した組織での崩しに重きを置いているのも彼らの特徴であり、独りよがりなプレーが批判の的になることはほとんどない。攻撃陣を巧みにオーガナイズし、「ポゼッションサッカー」、「二列目の創造力を生かすスタイル」の軸となる「小柄なテクニシャン」たちの価値はより高まることが予想される。
・最後に
これまでのサッカー界では、「身長が小さい」という理由で、トップチームへの昇格が見送られたり、出場機会に恵まれなかった選手たちが少なくなかった。また、シルバがバレンシアからマンチェスター・シティに移籍する際には、『フィジカル面がネックとなり、活躍できない』といった声が上がるなど、依然として「低身長」はマイナスの評価につながっている。確かに、シルバのフィジカル面はプレミアリーグの屈強なDFたちには到底敵わない。だが、シルバにはその弱点を補って余りあるほどの”卓越したスキル”と”サッカー頭脳の良さ”が備わっており、身長差を全く感じさせないプレーは観る者を虜にした。シルバが八面六臂の大活躍を見せたことが、マタ、アザール、香川、サンティ・カソルラ(アーセナル)ら「小柄なテクニシャン」たちのプレミアリーグ参戦を大きく後押しさせたことは間違いない。
このように、プレミアリーグではちょっとした「小柄なテクニシャン」ブームが起きているが、この流れは今後も加速すると筆者は睨んでいる。更に、世界各国で「ポゼッションサッカー」、「二列目の創造力を生かすスタイル」が流行し、「小柄なテクニシャン」たちの需要が高まれば、「テクニックに優れ、戦術理解度の高さに定評のある」日本人選手の価値もこれまで以上に上昇するだろう。(実際、今冬の移籍市場では、大前元紀がドイツのデュッセルドルフへ、永井謙佑と小野裕二がベルギーのスタンダール・リエージュへと移籍した)バルセロナ、スペイン代表が火付け役となった「ポゼッションサッカー」ブーム、プレミアリーグで流行中の「二列目の創造力を生かすスタイル」が今後どのような進化・発展を見せるのか大いに楽しみにしたいと思う。
2013/1/28 ロッシ
※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。
筆者名 | ロッシ |
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プロフィール | エル・シャーラウィ、ネイマール、柴崎岳と同世代の大学生。鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援しています。野球は大のG党。 |
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