今冬の移籍市場における、インテリスタの最重要関心事――と言って差し支えないだろう。

未だ決着を見ない、スナイデルの移籍問題だ。

ここにきてイングランドの名門、トットナム・ホットスパーズと大筋で合意したという話も出てきているが、同クラブの給与体制や経営方針、更にはスナイデル本人の趣向を考えると、これもにわかには信じがたい話である。何より、両クラブから具体的な話が公式な形で出てきていない。まだまだ状況は流動的と見るべきだろう。

筆者は昨年夏から、スナイデルの放出について肯定的なスタンスを取ってきた。戦術的・戦略的に大きな制約を受ける同選手の保持は、現在のインテルにおいてプラスになり得ない。あの頃は放出に反対していたティフォージの多くも、この1年半の彼の歩みを見れば、さすがに「サイクルの限界」を感じ始めていることかと思う。

されど、曲がりなりにもクラブのアイドルの一人である。未だに踏ん切りのつかない、諦めきれない方もいらっしゃるのではないだろうか?しかし、状況はすでに決した。そろそろ心の準備を完遂させるべきだ。

少しでも納得のいく手助けになればと思い、スナイデルを放出すべき決定的な理由を、4つの観点からまとめてみた。元々放出に賛成していたインテリスタ諸兄にも、改めて同選手を保持することの意味を確認していただければと思う。

1. 財政面でのダメージ

最も決定的な問題だろう。

3冠達成時の功労者を次々と解雇に踏み切り、もっか絶賛緊縮財政体制を継続したにもかかわらず、今年の負債が5000万とも6000万ユーロ(以下€)とも言われるのが、インテル・ミラノの財政状況であること。これをまず認識していただきたい。もはや、かつての放蕩経営には戻れない。世界的な経済不況やファイナンシャル・フェア・プレーの影響もあって、マッシモ・モラッティ会長の私財注入という形での補填は望めない状況である。そんな中でスナイデルの給与は、およそ600万€。しかもこれが税抜き価格で、実際には1000万€以上の支出をクラブは強いられるというのだから、空いた口が塞がらないというものだ。

それでも、スナイデルがシーズンを通して、チームを決定的な働きでもって幾度も救っていれば、こんなことにはなっていなかっただろう。だが、同選手のここ2年間の歩みはどうだ?

試合に出てきても終始イライラした様子で、自慢の中距離砲もプレースキックも、すっかり鳴りを潜めている。本当に苦しかった試合を、彼の働きで制した――そんなことが果たしてあっただろうか?仮にあったとしても、それを数えるのに我々は両手を必要としないはずだ。

結論から言って現在のスナイデルは、費用対効果がまったく割に合わない選手である。ワンプレー、ワンプレーにかかる金額が、まさに法外というべき値段だ。単純な年俸計算だけでなく、ボールタッチ、パス成功率、ゴール・アシスト数、チャンスメイクの数……こうしたゲーム内データと、年俸のバランスを可視化してみれば、その効率の悪さは一目瞭然となるはずだ。けが人が相次ぎ、チームが絶不調時にも一人でゴールを量産し、グループを牽引し続けていた2010-11シーズンのサミュエル・エトーなどとは、この点が決定的に異なる。クオリティの有無は言い訳にはならないのだ。「働かざる者食うべからず」である。

2. 戦術的・戦略的制約の大きさ

昨夏も言ったことだが、改めて確認しておくべきだろう。

スナイデルは、適正ポジションがトップ下に限定される選手である。それ以外のポジションでは、いずれもその力を存分に発揮できなかった。しかも、運動量が決定的に足りない。ボールホルダーにハイプレスをかけ、自ら守備の最前線を担うような仕事はまったく期待できない。常に周囲に犠牲を払い、トランジションの中核を任せるような起用法でこそ、最大限に力を発揮できるプレイヤーだ。

例えばグループ全員にハードワークの精神が根付いている、マンチェスター・ユナイテッドのようなクラブであれば、スナイデル一人がプレッシングで決定的な役割を果たさなくとも、周囲がおぜん立てをしてくれるかもしれない。しかし彼が現在所属しているインテル・ミラノは、ここ2年間、まさに運動量の不足に悩まされてきたチームである。その結果として導き出された答えのひとつが、現在ストラマッチョーニが採用しているクラシカルな攻守分業スタイルであり、「受け身」とも表現できるフットボールだ。

それでも自慢の3トップ(ミリート、カッサーノ、パラシオ)を始めとしたオーバー30組は、何かと運動量の不足が目についてしまう。例えばここにスナイデルを加えようなど、自殺行為も同然と言えるだろう。とかくスナイデルには、この問題が付きまとう。彼の力を生かすためには、彼を絶対的な戦術の中心に据えた布陣をしくことが前提となる。しかしそのバリエーションが、インテルの現陣容では極端に限定されてしまう。

ここで更なる問題となるのは、スナイデルの継続性の低さだ。身体的に強靭とは言えず、負傷欠場を繰り返す選手を、チームの中心に据えることはできない。インテルには他にも、コウチーニョ、アルバレス、カッサーノといったトップ下の候補が複数存在するが、皆それぞれ特性は異なっている。おもちゃのパーツのように、単純に彼らをスナイデルと入れ替えて、4-3-1-2や4-2-3-1で戦えるようにはなっていない。ベニテス、レオナルド、ガスペリーニ、ラニエリ……短期間でこれだけ指揮官が代わる中で、チームがどうしても基本戦術を確立させることができなかった一因には、間違いなくスナイデルの存在がある。

言うまでもなくスナイデルは、チーム一番の高給取りだ。先述した通り、年俸の総額は600万€にのぼるとも言われており、イタリアの税制の関係上、インテルの支出は軽く1000万€を超える。逆に言えば、故のアイドルである。指揮官にとって、無理してでも使わざるを得ない選手なのだ。昨季の苦い記憶を思い出して欲しい。スナイデル復帰と同時に、ラニエリが不慣れな4-3-1-2や4-2-3-1の導入を余儀なくされ、結果後半戦の大失速を招いたこと。これは決して偶然などではない。

「そこにいる」という一事だけで、起用しないわけにはいかない。それがインテルにおけるスナイデルの立場である。だが、そうしたクラブの信頼や重圧を受け止められるほど、彼は強靭なフットボーラーでもない。これが今回、クラブがスナイデルに実質的な放出勧告を行った、決定的な要因ではないかと思う。

3. かけ算では計算できない、たし算にしかなれない選手

前述した2つの要素とも関係してくることだが、スナイデルはチーム全体に、相対的にポジティブな影響を及ぼせるタイプではない。本人の特性を考えれば、与える影響はむしろネガティブだ。

チームにおけるかけ算、たし算について、まずは説明しておこう。

例えばかけ算で計算ができるフットボーラーの典型としては、キングカズの存在を挙げないわけにはいかない。先日のフットサルW杯において、評論家の一部には「話題づくりでカズを入れたために、代表の座から零れおちた選手がいた」などと、その正当性を疑問視する声もあがっていたが、筆者からすれば噴飯ものである。グループを管理すること、人を指揮することの意味を理解していない、自ら無知を曝け出したに等しい愚行だ。

カズ本人のフットサルの実力は、W杯において招集された、どの選手よりも低かったのではないかと思う。フットサルに関しては、素人同然の状態でメンバーに名を連ねたのだから、これは一目瞭然だ。メンバーをたし算に喩えて考えたとしたら、平均が+10、チームのエース格が+15~20だとして、カズは果たして5もあるかどうか、わからないような状況だったと思う。この点だけを考えれば、カズを代表に招集するメリットなどはどこにもない。

されども、「フットボーラーの価値」とはたし算だけで決まるものではない。特に国際試合など、少数精鋭で挑む短期決戦において重要なのは、かけ算としての資質である。この点でカズは、日本のフットボール史において、傑出した一人だろう。

通常、このかけ算の幅は、せいぜいが×1.1~1.2程度である。これは当然と言えば当然で、そこにいるだけで周囲のモチベーションを刺激したり、規律意識を高めたりできる存在など、そうそう簡単にいるものではない。この点で言えば、フットサルW杯におけるカズの効果は、×1.5にも、あるいは2.0にもなっていたのではないかと思う。まず個人としての「貪欲な向上意欲」がチームに緊張感を生み出す。「フォア・ザ・チームの姿勢」が一体感を生み出す。「俄然高まったメディアへの露出・注目度の高さ」がかつてないモチベーションをもたらした。自身の力が一流には及ばなくとも、グループの運営において、間違いなくカズは決定的な存在だったと言える。

一方、スナイデルはどうか。彼が自分以外の選手に、こうした更なる+αをもたらすことができるだろうか? ……答えは否。否である。

ピッチ内では、他の選手に多くの犠牲を要求する。これはスナイデル本人のたし幅が、+20にも25にも相等すると考えれば、それでも妥当と考えることもできるかもしれない。だが、ピッチ外でのマイナスは顕著だ。少なくとも、今の彼はネガティブな影響の方が大きいと言わざるを得ない。

例えばクリスティアーノ・ロナウドなどは、確かにタブロイド紙を賑わすポップ性を備えてもいるが、フットボーラーとしてはむしろ練習の虫として知られる。そのプロ意識の高さは、誰もが称賛するところなのだ。彼の練習態度や日々の過ごし方に、おおいに刺激を受けたという者は少なくない。

翻ってスナイデルは、フットボールだけでなく、遊びも追及しなければ生きていけないタイプである。オフ中に喫煙しているところを撮影されたり、セレブとパーティーで豪遊しているところをツイッターで公開、クラブに厳重注意を受けるなど、お世辞にもプロフットボーラーとして模範的とは言い難い。明るいお調子者で、ともすれば選手が過度に緊張しがちな代表戦やCLの試合前に、移動中にラップを歌って場の雰囲気を和まそうとするなど、好ましいキャラクターは持ってはいる。しかし、そういったポジティブな面を考慮しても、トータルではせいぜいがプラスマイナス0だろう。インテルのチームメイトであるサネッティやカンビアッソのように、生活スタイルの細部に渡るまで細心の注意を払い、フットボーラーに打ち込むプロフェッショナリズムには欠けている(言うまでもなく、彼らはかけ算でも計算できる選手である)。少なくとも、他の多くの選手にとって、模範となれるようなタイプでないことは確かだ。若手~中堅の伸びしろある選手を多く獲得して育てていく方針を、新たなプロジェクトで掲げている現在のインテルにおいて、これは見過ごせない瑕疵となる。

4. モチベーション維持の困難さ

最後に、本人にとって、インテルが最適な環境ではなくなってしまったことが挙げられる。

モウリーニョがチームを指揮していた時代には、レアル・マドリー所属時代からは考えられないほど、真摯な姿勢でフットボールに打ち込んでいた。怪我も少なく、何よりもチームの勝利のために全力を尽くす姿勢が見られたし、あらゆる勝利を渇望する貪欲さがあった。

それが壊れてしまったのは、モウリーニョとの別れもさることながら、2010年のバロンドール選考において、予想外の結果に打ちのめされたからではないかと思う。間違いなく自身のキャリアの中でベストと言えるパフォーマンスを披露し、インテルで3冠を達成、オランダ代表でW杯準優勝という決定的な結果を残したにもかかわらず、この年から投票制度の変わった同賞において、予想外の低評価を受けるという挫折を味わった。これは言ってみれば、スナイデルという選手の価値や可能性を否定されたに等しい扱いである。彼にとってモチベーションの維持が難しいことが、客観的に見て十分に理解できる仕打ちではあった。だが、その同情だけでは年間1000万€以上の金額を支払うことも、チームの中軸を任せることはできないということも、我々は知っておくべきだろう。

彼に必要なのは変化だ。もはやインテルとカルチョという環境では、モウリーニョと共に獲得した、3冠以上の栄冠は望めない。誘惑の多い、ミラノという街の特性もマイナスだ。彼はフットボールに打ち込むだけで、満足した生を謳歌できるキャラクターではない。そこかしこにセレブ向けの娯楽が鏤められたミラノという街は、さながら誘蛾灯のように、彼をさまざまな遊びに誘う。実際に彼には、そうした誘惑を現実の快楽として享受できるだけの、金も時間もあるのである。こうした誘惑を払いのける力に欠けることは、彼の歩んできたキャリアが、歴史が証明している。

スナイデルはいわゆるバンディエラ(※クラブの象徴)となって、全ての選手とサポーターの模範・憧憬となり、クラブを牽引できるタイプではない。良くも悪くも、環境の変化に影響を受けすぎる。インテルにとってもスナイデルにとっても、別れるべき時がきたということだ。インテルというクラブにとっては、スナイデルがいることのデメリットが、メリットを下回ってしまった。スナイデルは、インテルというクラブでは、これ以上活躍ができない。他のクラブでリスタートすれば、まだまだ成功の可能性を秘めた選手なのである。日常に新たな発見や緊張感を持って臨み、モチベーションを掻き立ててくれるような状況が必要だ。新たな文化、新たなフットボールを愉しめる環境を探すことが、お互いにとって最良であることは、確信をもって言うことができる。

おわりに

彼にぬるま湯の待遇を与えて甘やかしてしまったことを、インテルはおおいに反省すべきである。インテリスタもまた、彼に度の過ぎた礼賛を浴びせ、余計やエゴや過剰なプライドを育ててしまったことを、おおいに省みて然るべきだろう。現在のスナイデルの体たらくは、言わばクラブとサポーター、本人の合作である。キャリアの迷走のツケ払いを、全員が支払う時がやってきたのだ。

事ここに到っては、別れは不可避と考えた方がよい。今冬はクラブと選手の両者にとって、最低限の納得がいく形で別れられる、最後のチャンスと言っていい。大幅な減給という新契約を飲めないことは、つまりスナイデルが自身の価値も、インテルの状況も、どちらも正しく理解していないことの表れである。これ以上の残留は最も望まれない結果であり、お互いがダメージを負う未来しか生み出すまい。この結末だけは迎えてはならない。

新天地では、給与分の仕事ができるように全力を尽くして欲しい。それが世界最高のフットボーラーの一角に、再び名を連ねる上での絶対条件だ――

この一言を個人的な惜別の言葉としつつ、クラブには一刻も早く、スナイデルの新天地を見つけるために奔走してくれることを願う。

<了>

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。

 

筆者名 白面
プロフィール モウリーニョ、インテル、川崎Fにぞっこん。他にはジェノア、トットナム、リヴァプールなんかも贔屓に。選手はもっぱら『クセモノ』系ばかり愛でてます。プライベートでは、サッカー関連のblogや同人やあれこれ書いていたり?とりあえず以後お見知りおきを。
ブログ http://moderazione.blog75.fc2.com/
ツイッター
Facebook  
{module [170]}
{module [171]}
{module [190]}

【厳選Qoly】6度の選手権優勝!高校サッカー屈指の名門、帝京高校が輩出した「最強の5人」