ペトロヴィッチの戦術を読み解く
終盤戦を迎え、白熱の様相を呈するJリーグ。今季も残り7節となり、優勝争い、ACL出場枠争い、残留争いの行方を気にしているサポーターは多いだろう。
今季は例年以上にシーズン前の監督交代が多く、鹿島アントラーズやガンバ大阪など新監督を招聘したチームが苦戦しているが、第27節を終えて首位に立つサンフレッチェ広島や3位につける浦和レッズは、政権交代を追い風に変えて好成績を収めている。
この好調な2チームに共通する人物こそが、昨シーズンまでサンフレッチェ広島を率い、今シーズンから浦和レッズの指揮を執るミハイロ・ペトロヴィッチだ。
そして、今回の当コラムでは、彼が志向する独特なスタイルを読み解いていきたい。
・基本システムは「3-6-1」
上図は第27節の浦和レッズ対柏レイソルでのスタメンだ。ペトロヴィッチはサンフレッチェ時代からこの「3-6-1」を基本システムとして採用しているが、この形はあくまでも「基本」であり、試合展開、状況に合わせてフォーメーションが変化する。
・攻撃時は「4-1-5」
上図が攻撃時のフォーメーションだ。ダブルボランチの一角である阿部勇樹が最終ラインに入り、DFラインの人数が3人から4人へと変化。ウィングバックの平川と宇賀神がかなり高い位置を取り、「3-6-1」から「4-1-5」へと様変わりする。
ペトロヴィッチはGKも含めた最終ラインから徹底してボールを繋ぐスタイルを志向しているが、DFラインを4人にすることで、最終ラインからのビルドアップからピッチをワイドに使った攻撃が可能になる。
また、DFラインからの積極的なオーバーラップもこのシステムの特徴のひとつであり、サンフレッチェ、レッズでペトロヴィッチの薫陶を受ける槙野智章は持ち前の攻撃性能を存分に発揮し、チームの攻撃を活性化させている。
更に、相手のペナルティエリア前に5人のアタッカーが張り付くことで、相手DFにとって困難な状況を作り出す事もこのシステムの狙いである。
上図はレイソルの守備陣と対峙するレッズの選手たちであり、阿部、あるいは永田がボールを持っている時に度々見られた形を図示したものだ。
レッズの前線の選手たちはレイソルのDF、MFのラインの間に入り込み、コンビネーションで崩そうとしていた。このようなレッズの攻め方は相手DFに混乱を生じさせる可能性が高く、筆者が応援する鹿島アントラーズもレッズとの対戦時には、見事にバイタルエリアを攻略されてしまった。
・守備時は「5-4-1」
一方、守備時のフォーメーションは上図の通りだ。ウィングバックが最終ラインへと吸収され、5バックを形成。攻撃的MFの梅崎とマルシオもしっかりと帰陣し、ブロックを完成させる。
このように自陣に引いてディフェンスを行う事で、可能な限り失点のリスクを減らそうという意図が読み取れる。実際、似たような戦術で戦うサンフレッチェの失点数が28、レッズの失点数が30(第27節終了時)と守備安定は数字でも現れている。
無論、この「ベタ引き」とも形容できるディフェンスのやり方は一見、ポゼッションサッカーを好むペトロヴィッチの哲学にはそぐわないように感じられるだろう。
例えば、ポゼッションサッカーの代名詞的存在のバルセロナ、スペイン代表では、ボールを奪われた際、「すぐに数人で取り囲み、ボールを奪い返す」守備が徹底(その象徴がペドロ・ロドリゲス)されている。最近では多くのチームが最終ラインを高く保ち、なるべく陣形をコンパクトに保つ中、レッズ、サンフレッチェのやり方は上位争いをするチームとしては異端に映るものであり、大変興味深い。
・世界とアジアの舞台で
ここまで述べてきたペトロヴィッチの独特なスタイルは世界を見渡しても、恐らくサンフレッチェとレッズの2チームしか実戦していない非常に珍しいスタイルである。それだけに、国際舞台で是非このスタイルを披露して欲しいと筆者は考えている。
この先のJリーグの展開がどう転ぶかは予想できないが、このまま行けば、サンフレッチェがFIFAクラブワールドカップの出場権を、レッズがACL出場権を得る。両チームが熾烈な上位争いを制し、世界の舞台で、アジアの舞台で、ペトロヴィッチのスタイルを披露できるか。残り少ないJリーグをそういった視点から追っていくのも一興だろう。
2012/9/30 ロッシ
※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。
筆者名 | ロッシ |
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プロフィール | 『鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックを応援している大学生。ダビド・シルバ、ファン・ペルシー、香川真司など、足元が巧みな選手に目が無いです。野球は大のG党』 |
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