昨シーズン終了後、元イタリア代表FWフィリッポ・インザーギが現役引退を表明した。泥臭いプレースタイルを持ち味とした生粋のゴールゲッターの引退は、多くのサッカーファンを悲しませたことだろう。

このインザーギの引退は、筆者にある傾向を予感させた。それは「センターフォワード」というポジションの価値が変容していることだ。

このことを証明するかのように、スペイン代表はトップ下を本職とするセスク・ファブレガスを最前線に配した「ゼロトップ」で再び欧州の頂点に立ち(セスクはフェルナンド・トーレス、フェルナンド・ジョレンテ、アルバロ・ネグレドといったトップクラスのフォワードをベンチに追いやった)、そのスペイン代表を多く輩出するバルセロナでは、リオネル・メッシが偽のセンターフォワードとして起用され、パスサッカーを更なる高みへと導いた。

また、昨シーズン、昇格組のスウォンジーで魅力的なパスサッカーを展開し、今シーズンからリヴァプールを率いるブレンダン・ロジャーズは約45億円の移籍金で獲得した長身フォワード、アンディ・キャロルを自らのパスサッカーにミスマッチだとし、ウェストハムへとレンタルで移籍させた。これらは、生粋の点取り屋の価値が現在流行しているパスサッカーによって変容していることを示す出来事だろう。

バルセロナとスペイン代表が展開するパスサッカーは、各国のクラブ、代表に様々な影響をもたらした。EUROで準優勝に輝き、下馬評を覆したイタリア代表はポゼッションを高めたスタイルを新たに披露し、前述したロジャーズは低迷が続くリヴァプールにパスサッカーを導入するという使命を与えられた。昨シーズンはローマとチェルシーがそれぞれルイス・エンリケ、アンドレ・ヴィラス=ボアスという新進気鋭の指揮官を招聘してパスサッカーを植え付けようとしたが、ボールを大事にするスタイルを各国のクラブ、ナショナルチームが取り入れる流れはこれからも加速するはずだ。

そして、このスタイルにおいて犠牲となってしまうのが、生粋の点取り屋たちなのである。パスサッカーにおいて求められるフォワードの能力には

1.足元の技術に長けている
2.ゴール前の決定的な仕事だけでなく、組み立ての部分にも積極的に絡む
3.2列目の選手たちと連動して崩せる

が挙げられる。パスサッカーを指向するロジャーズがキャロルの放出に踏み切ったのも、キャロルがイングランド伝統の古典的なストライカーであり、ロジャーズが求める“モダンな”ストライカーではなかったからだ。

現代のフットボールシーンで活躍するフォワードと少し前の時代に活躍したフォワードを比較すると、求められる能力が変化しつつあることが分かる。少し前の時代に君臨したロナウド(元ブラジル代表、インテル、レアル・マドリーなどでプレー)、クリスティアン・ヴィエリ(元イタリア代表、アトレティコ・マドリー、インテルなどでプレー)、ルート・ファン・ニステルローイ(元オランダ代表、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリーなどでプレー)といったフォワードはいずれも典型的な「9番」であり、ゴール前での決定的な仕事を生業としていた。

だが、ロビン・ファン・ペルシー、ウェイン・ルーニー(マンチェスター・ユナイテッド)、ズラタン・イブラヒモヴィッチ(パリSG)、カリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)、カルロス・テベス(マンチェスター・シティ)といった現代の点取り屋たちは、プレーエリアはゴール前だけでなく、中盤に下がってのチャンスメイクでも貢献する選手たちだ。もちろん、ラダメル・ファルカオ(アトレティコ・マドリー)、マリオ・ゴメス(バイエルン・ミュンヘン)、ハビエル・エルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)、クラース=ヤン・フンテラール(シャルケ)といったペナルティエリア内で輝く点取り屋たちも活躍しているが、その数は減少気味である。

かつてのフットボールシーンではファンタジスタ(10番)が試合を決める時代があった。

この時代に活躍した選手には、ディエゴ・マラドーナ(元アルゼンチン代表、ボカ・ジュニアーズ、バルセロナ、ナポリなどでプレー)、ロベルト・バッジョ(元イタリア代表、フィオレンティーナ、ユベントス、ブレシアなどでプレー)、ジネディーヌ・ジダン(元フランス代表、ユベントス、レアル・マドリーなどでプレー)、アルバロ・レコバ(元ウルグアイ代表、インテルなどでプレー)、ロナウジーニョ(ブラジル代表、パリ・サンジェルマン、バルセロナなどでプレー)などが挙げられるが、彼らは守備のタスクを免除され、攻撃面でその力をフルに発揮した。だが、プレッシングサッカーが浸透、発展するにつれて、ファンタジスタたちは進化を遂げ、守備もこなしながら、周りと連動して崩すタイプの「10番」が増えた。これと同様に、センターフォワード(9番)も以前の「ペナルティエリア内だけで仕事をする9番」から「ゴール前での働きに加え、チャンスメイク、守備もこなす9番」へと進化しつつある。

これから先、トレンドになりつつあるパスサッカーが「9番」にどのような影響を与えるのか。新たな「9番」の出現を心待ちにしつつ、今シーズンも開幕したヨーロッパサッカーを追っていきたい。

2012/9/7 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 ロッシ
プロフィール 『鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックを応援している大学生。ダビド・シルバ、ファン・ペルシー、香川真司など、足元が巧みな選手に目が無いです。野球は大のG党』
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