継続路線か?革命路線か?

2000年より指揮を執るモアテン・オルセンの下、チームは着実に継続路線を歩んでおり、今大会でも組織的な守備と果敢なサイドアタックを披露してくれることだだろう。しかし、彼らが東欧の地で成功を収められるか?という問われた際には、なかなか肯定的な見解を示すことができないのが正直なところだ。

当然、オランダ、ドイツ、ポルトガルと強豪揃いのグループリーグに身を投じてしまったことが最大の理由だが、それ以外にも負の要素は多々ある。特に気になるのが、現在、戦術の転換期に差し掛かっている最中であるということだ。ここのところ、彼らが挑戦しているのは「ポゼッション率の向上」と「厚みのある攻撃」。例えば、6月2日に行われたオーストラリア戦での先制点はダニエル・アッガーの思い切った攻撃参加から得たPKが生んだものであり、ゴールシーン以外でもセンターバックやサイドバックがかなり高い位置を取る状況が散見された。これだけ聞けば、効果性もあり、その目論みが成功しているように思われるが、このモデルチェンジを行ったことで守備力は著しく低下。上記のオーストラリア戦では相手の拙さもあって瓦解することはなかったが、カウンターからいくつも決定機を許していたのが事実だ。

たしかに、新境地を開拓する革命的なやり方には面白さがある。しかし、そのリスク度は極めて甚大で、オランダ、ドイツ、ポルトガルらを相手に用いるのが得策なのかは大きな疑問が残る。とは言え、これまでの継続路線を進めば、安定感は期待できるが、それ以上は・・・という状況であり、オルセンは本大会中もその戦い方に頭を悩ますことだろう。

成功の鍵はエリクセンの双肩に?

上記のように悲観的な見方も少なくないデンマークだが、1992年に行われたEUROで旋風を起こした“ダニッシュ・ダイナマイト”の再現を期待する者は決してゼロではない。そして、その思いに応えるために欠かせないファクターが欧州のビッグクラブからも注目を集めるクリスティアン・エリクセンの活躍だ。

「彼は素晴らしい選手ではあるが、彼の不出来によって勝敗が左右されることはない」と監督のモアテン・オルセンは語っているが、おそらく、これはエリクセンに過度なプレッシャーが掛からないようにするため。オルセンは「ミハエル・ラウドルップの後継者」とも称される若き天才ミッドフィルダーの力を間違いなく信じていることだろう。

デンマークの十八番とも言うべきサイドアタックが機能するか否かについても、エリクセンが担う役目は大きい。サイドアタッカーとして起用されるロンメダール、シェーネ、クロン=デリらはクロスボールを上げることよりも、中央へのカットインや周囲とのパスワークでの崩し、シュートなどを積極的に狙うタイプだが、この攻撃を円滑に進ませるためにはトップ下のチャンスメイクが必要不可欠。つまり、エリクセンのパスセンス、キープ力、判断力一つで決定機を作ることも潰すことも可能なのである。

そうなると、予想されるのが「エリクセン潰し」。オランダ、ポルトガル、ドイツはいずれもデンマークより格上のチームであるため、あからさまな「エリクセン包囲網」を敷くことはないかもしれないが、「デンマークを機能不全に陥れるにはエリクセンを消すべし」と各チームのスカウティングレポートにはきっちりと記されているはず。そして、エリクセンと直接対峙することも多い守備的ミッドフィルダーたちは激しいチェックとマークを繰り返すことだろう。

現実的に見れば、デンマークのグループリーグ突破は容易ではないが、エリクセンがこれまで経験したことのないようなピッチ内外でのプレッシャーをはねのけ、“ダニッシュ・ダイナマイト”の司令塔として君臨した暁には、決勝トーナメント進出の光が見えてくるかもしれない。

なお、EURO2012に挑む本大会メンバー23名は以下の通り。

#名前所属クラブ生年月日身長/体重
GK
1 ステファン・アンデルセン
(Stephan Andersen)
エヴィアン
(FRA)
1981/11/26 188/82
16 アンデルス・リンデゴーア
(Anders Lindegaard)
マンチェスター・ユナイテッド
(ENG)
1984/4/13 193/80
22 カスパー・シュマイケル
(Kasper Schmeichel)
レスター
(ENG)
1986/11/5 185/91
DF
3 シモン・ケア
(Simon Kjaer)
ローマ
(ITA)
1989/3/26 188/82
4 ダニエル・アッガー
(Daniel Agger)
リヴァプール
(ENG)
1982/12/12 187/75
5 シモン・ポウルセン
(Simon Busk Poulsen)
AZ
(NED)
1984/10/7 184/76
6 ラース・ヤコブセン
(Lars Jacobsen)
コペンハーゲン 1979/9/20 181/76
12 アンドレアス・ビェラン
(Andreas Bjelland)
ノアシェラン 1988/7/11 188/85
13 ヨナス・オコレ
(Jores Okore)
ノアシェラン 1992/8/11 183/80
18 ダニエル・ヴァス
(Daniel Wass)
エヴィアン
(FRA)
1989/5/31 181/74
MF
2 クリスティアン・ポウルセン
(Christian Poulsen)
エヴィアン
(FRA)
1980/2/28 182/72
7 ウィリアム・クヴィスト
(William Kvist)
シュトゥットガルト
(GER)
1985/2/24 184/74
8 クリスティアン・エリクセン
(Christian Eriksen)
アヤックス
(NED)
1992/2/14 175/65
14 ラッセ・シェーネ
(Lasse Schone)
NEC
(NED)
1986/5/27 178/75
15 ミケール・シルベルバウアー
(Michael Silberbauer)
ヤングボーイズ
(SUI)
1981/7/7 183/75
19 ヤコブ・ポウルセン
(Jakob Poulsen)
ミッテュラン 1983/7/7 182/72
20 トーマス・カーレンベア
(Thomas Kahlenberg)
エヴィアン
(FRA)
1983/3/20 185/72
21 ニキ・ジムリン
(Niki Zimling)
クルブ・ブルッヘ
(BEL)
1985/4/19 175/73
FW
9 ミケール・クロン=デリ
(Michael Krohn-Dehli)
ブレンビュー 1983/6/6 170/71
11 ニクラス・ベントナー
(Nicklas Bendtner)
サンダーランド
(ENG)
1988/1/16 193/84
10 デニス・ロンメダール
(Dennis Rommedahl)
ブレンビュー 1978/7/22 178/68
17 ニクラス・ペデルセン
(Nicklas Pedersen)
フローニンゲン
(NED)
1987/10/10 187/76
23 トビアス・ミケルセン
(Tobias Mikkelsen)
ノアシェラン 1986/9/18 178/73

なお、トーマス・セーレンセン(ストーク)は当初大会登録メンバーに選ばれていたが、ブラジルとの親善試合で腰を痛めて欠場が決定。代わりにカスパー・シュマイケル(レスター)が招集されている。

フォーメーション


(筆:Qoly編集部 T)

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