プレミアリーグの歴史に新たな1ページが刻まれた。マンチェスター・シティ(以下シティ)が44年ぶりにリーグ戦を制したのだ。

数年前までは、優勝争いに絡むことがなかったシティだったが(ちなみに2005-06シーズンは15位、2006-07シーズンは14位)、2008年にUAEの投資グループADUGがオーナーとなってからは、豊富な資金を元手に他クラブが羨む大型補強を次々と敢行。3位でリーグ戦を終え、クラブ史上初となるチャンピオンズリーグ参戦を決めた昨シーズンを経て、久々のリーグ優勝(3度目)を成し遂げた。

今回の当コラムでは最終節で劇的な優勝を決めたシティの今シーズンを振り返っていきたい。

・魅力的なポゼッションサッカーを披露

昨シーズンにクラブ史上初となるチャンピオンズリーグ出場を決めたシティだったが、指揮官マンチーニの守備的な戦術、采配は批判を浴びることも多かった。しかし、迎えた今シーズンは自分たちが主導権を握る攻撃的なサッカーにシフトチェンジし、大変魅力的なスタイルへと変貌を遂げた。今シーズンの開幕前にアーセナルからサミル・ナスリ、アトレティコ・マドリーからセルヒオ・アグエロといった技巧派を獲得したことからも、マンチーニがスタイルの転換を考えていたことが窺える。

そして、そのサッカーの中心として活躍したのが、チーム随一のテクニシャンであるダビド・シルバだ。

・絶対的な軸として活躍したシルバ

今シーズンのシティは4-2-3-1の布陣で戦う事が多かった。二列目には右からシルバ、アグエロ、ナスリが主に起用されたが、3人ともポジションが固定されている訳ではなく、自由にポジションチェンジを繰り返しながら、相手ディフェンダーを混乱させる役割を担っていた。

特に、シルバはピッチ上の至る所に顔を出し、チームの攻撃をスムーズにする「潤滑油」として抜群に機能した。得意とするバイタルエリアでの決定的なプレーだけではなく、センターサークル付近にも顔を出し、ボール回しにも参加。常に数的優位を作り出す神出鬼没なシルバが不在のゲームでは、どこか物足りなさを感じてしまったのは筆者だけでは無いはずだ。

もちろん、活躍したのはシルバだけではない。ここからは筆者が考える「優勝の立役者」を述べていきたいと思う。

・ダイナミズムをもたらしたヤヤ・トゥーレ

昨シーズンは主にトップ下で起用されたヤヤ・トゥーレだったが、今シーズンは本職であるボランチの位置でプレーし、存在感を放った。

ヤヤ・トゥーレは1m91cm91kgという超重量級だが、足元の技術にも定評がある(バルセロナでプレー経験有り)選手だ。パワーとテクニックを高次元で兼ね備えた希少価値の高いプレーヤーと言っていいだろう。

実際、彼の不在時にはマンチーニも選手起用に悩んだ。ヤヤ・トゥーレがコートジボワール代表としてアフリカネイションズカップに招集された際には攻撃的ミッドフィルダーであるナスリを中盤センターで起用したが、ヤヤ・トゥーレの穴を完璧に埋めることはできていなかった。

圧倒的なダイナミズムでチームの優勝に貢献したヤヤ・トゥーレには、シャビ・アロンソのパートナーを探すレアル・マドリーや古巣であるバルセロナが興味を抱いていると報じられているが、当の本人は

「バルセロナはわたしにとって最も重要なクラブだ。最近、レアル・マドリー移籍など、わたしの将来についていろいろと言われているようだが、まだどのクラブとも話してはいない。いずれにしても、今はマンチェスター・シティで幸せな日々を送っている」

とコメント。

シティでは代えの利かない存在だけに、首脳陣、サポーターとしては何としてでも残留してほしいところだろう。

・キャプテンとしてチームを引っ張ったコンパニ

また、キャプテン、ディフェンスリーダーとしてチームを引っ張ったヴァンサン・コンパニはシーズンMVPに選出されるなど充実のシーズンを過ごした。

カルロス・テベスから腕章を受け継いだコンパニは責任感溢れるプレーでチームを後方から引き締めた。天王山となった36節のマンチェスター・ダービーで決勝点をマークするなど、メンタリティーの強さも示したコンパニはセンターバックとボランチを兼任するポリバレントなプレーヤーから世界でも有数のセンターバックへと成長を遂げたと言える。

・卓越したチームマネジメントを披露したマンチーニ

そして、チームを優勝へと導いたマンチーニはいくつかの"事件"に上手く対応した。

まずは、カルロス・テベスの造反だ。

昨シーズンはキャプテンとしてチームを牽引したテベスだったが、度重なる移籍願望の表明で、マンチーニの信頼を失っていた。今シーズンの開幕からコンパニーに腕章を託し、チームの結束を高めたが、チームを揺るがす大事件が起きてしまう。それは、2011年9月27日に行われたチャンピオンズリーグのバイエルン・ミュンヘン戦で途中出場を拒否するという前代未聞の出来事だった。

マンチーニはテベスに対し、謝罪すればチームに復帰させるとコメントしたが、肝心のテベスがアルゼンチンに無断で帰国するなどこれを拒否。結局、テベスが公に謝罪したのは年が明けてからだった。

確かに、戦力的に見ればテベスの離脱は痛手だったかもしれない。だが、チームに不満分子が存在すれば、自ずとチームの雰囲気は悪くなる。迅速な判断でテベスの処遇を決めたマンチーニには称賛の声が集まってしかるべきだろう。

そして、”悪童”マリオ・バロテッリもマンチーニを大いに悩ませた。

多くのサッカーファンにとって、バロテッリは「お騒がせ男」として有名な選手だろう。今シーズンも大小様々な事件を巻き起こしたバロテッリだったが、第32節のアーセナル戦で2枚のイエローカードを掲示され、退場処分となったことで、ついにマンチーニの堪忍袋の緒が切れてしまった。

0-1で敗れた試合後、マンチーニは次のようなコメントを残した。

「今日の彼に対する私の仕事は終わった。人として好きだし、選手としても好きだ。あいつは悪いやつじゃない。素晴らしい選手だよ。しかし、今は彼のことを残念に思う。本来のクオリティーと才能を失っているからだ。本人が、自分にとって良いことではないと理解してくれていることを願うよ」

バロテッリの才能は本物であると筆者は考えているが、度重なる問題行為は自らの輝かしい未来を妨げるものになるだろう。ミランへの移籍も取り沙汰されるバロテッリが、来シーズンはピッチ内外でどのような振る舞いを見せるのか注目していきたい。

・CLでの躍進にも期待

プレミアリーグを制したシティには、チャンピオンズリーグ(CL)での上位進出も期待したい。初出場となった今シーズンのCLでは、グループリーグでバイエルン、ナポリ、ビジャレアルといった強豪と戦い、A組3位に終わった。(その後参戦したヨーロッパリーグではベスト16)欧州の舞台でも存在感を示すことで、強豪クラブとしての地位を不動のものにできるはずだ。チームの成熟が今シーズンよりも進むであろう来シーズンは、決勝トーナメントの舞台で、ビッグクラブと戦うことがノルマとなるだろう。

現在のシティには筆者が好きな選手が多数在籍しており、(シルバ、アグエロ、ナスリなど)今シーズンはそのタレントを活かしたサッカーをしていた事もあって、非常に楽しく観戦することができた。来シーズンも、豪華なタレントが集うシティを注意深く追っていこうと思う。

2012/5/19 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 ロッシ
プロフィール 『鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックを応援している大学生。ダビド・シルバ、ファン・ペルシー、香川真司など、足元が巧みな選手に目が無いです。野球は大のG党』
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