鹿島アントラーズには伝統のシステムがある。それは中盤をボックス型にした4-4-2だ。

多くのクラブでは監督交代によってシステム、戦術が変わるのが普通である。だが、アントラーズは監督が代わっても、システム、戦術が変わることはなかった。土台が揺るがなかったからこそ、安定して勝利を積み重ねてきたと言える。

今シーズンから指揮を執るジョルジーニョ監督は現役時代にアントラーズでプレーした経験があり、アントラーズの哲学をよく知る男である。だが、彼がアントラーズに持ち込んだシステム、戦術はこれまでの伝統とは一線を画したものだった。

・新機軸のダイヤモンド型

ジョルジーニョ新監督は開幕戦の対ベガルタ仙台戦で中盤をダイヤモンド型にした「4-3-1-2」を披露する。このシステムでは、従来のボックス型よりも選手間の距離が近くなるため、安定したボールポゼッションが見込める。アントラーズの中盤にはサイドプレーヤーよりもテクニシャンタイプが多いため、この新機軸は成功すると筆者は睨んでいた。

しかし、長年の伝統を変えるのには時間が必要であることも事実。結局、前線の動き出しや効果的な絡みが見られないまま、いいところなく完敗。期待された新システムは機能したとは言い難い出来だった。この試合を境にジョルジーニョ監督は新機軸の「4-3-1-2」から伝統の4-4-2にシステムを変更する。新指揮官は慣れ親しんだシステムで攻守のバランスを取ることを選択したのだ。

だが、第7節のセレッソ大阪戦での大逆転勝利によって、再び「4-3-1-2」の可能性を感じることとなる。

・新加入のドゥトラが活きる「4-3-1-2」

第6節のFC東京戦でリーグ戦初勝利を挙げたアントラーズだったが、セレッソ戦では前半に2ゴールを許す苦しい展開を強いられる。この難局を前にしたジョルジーニョ監督は後半開始からドゥトラを投入し、システムをボックス型の4-4-2からダイヤモンド型の「4-3-1-2」に変更。何がなんでも点を取らなくてはならない状況で打ったこの一手によって完全にペースを握ると、ドゥトラ、興梠慎三、遠藤康のゴールで大逆転勝利を収めたのだ。特に、トップ下に入ったドゥトラは持ち前の個人技を活かした突破で試合の流れをアントラーズに呼び込んだ(ドゥトラは1ゴール1アシストの大活躍)。この交代策は、敵将のセルジオ・ソアレス監督が「相手のフォーメーション変更に対応しきれなかった」と振り返った見事な采配だった。

ジョルジーニョ監督は次節のガンバ大阪戦でもトップ下にドゥトラを起用する「4-3-1-2」を採用すると、試合を通してペースを握り、5-0の快勝を収める。この試合でもドゥトラが特筆すべきパフォーマンスを披露。迫力満点のドリブル突破でガンバDF陣を混乱させることに成功していた。

「4-3-1-2」というシステムでは、トップ下に起用される選手の能力が試合の勝敗を分ける重要なファクターとなる。トップ下の選手には独力で試合を決めることができるだけの力が求められるのだが、ドゥトラにはそれだけの力が備わっている。ドゥトラが加入した後に「4-3-1-2」が機能し始めたことは決して偶然ではないはずだ。

ガンバ戦後のインタビューでジョルジーニョ監督はこのようなコメントを残している。

「ここ最近はボックスでやってきたが、ドゥトラや本山(雅志)がいるのでダイヤモンド型でやることで彼らの攻撃的な役割を活用したり、相手のボランチにプレッシャーを与えることができる。今まで足りなかったのはカウンターを仕掛けた時に最後のパスの精度や推進力だったが、それがドゥトラの加入で変わってきた」

・ミランをお手本に

現代サッカーではサイドでの攻防が重要視されているため、多くのクラブが「4-2-3-1」または「4-4-2」を採用している。この2つのシステムでは、サイドアタックと中央突破を織り交ぜたバランスの良い攻撃が可能であり、また、守備の場面でもディフェンスラインの4人と中盤の4人で4-4のブロックを形成することができる。この4-4のブロックはピッチ全体を万遍なくカバー出来るため、相手の攻撃に対して非常に有効な防御手段となっているのだ。

一方の「4-3-1-2」では、サイドアタックよりも中央突破が有効な手段となる。前述したように現代サッカーではサイドの攻防が重要視されているだけに、このシステムを使いこなすことは難しい。実際、Jリーグだけでなく、世界的に見ても「4-3-1-2」を採用するクラブは少ない。そこでお手本となるのがイタリア屈指の名門ミランだ。

ミランと言えば、緻密な「4-3-1-2」システムで勝利を積み重ねてきたクラブだ。カリアリ時代からこのシステムを採用していた、現指揮官マッシミリアーノ・アッレグリに率いられたミランは、攻守のバランスが抜群に良く、戦術の完成度は非常に高い。「4-3-1-2」システムの教科書的存在として、学ぶ点は多いはずだ。

現在のアントラーズの「4-3-1-2」の完成度は決して高くない。しかし、アントラーズの中盤には柴崎岳、小笠原満男、遠藤康、増田誓志、青木剛、梅鉢貴秀、本田拓也、本山雅志、ドゥトラといったJリーグでも屈指の人材がひしめいているだけに、「4-3-1-2」システムを物にするだけのポテンシャルは十分にあると言えるだろう。

ジョルジーニョ監督が新機軸の完成度を高めた暁には、新たな黄金時代の幕開けを迎えることになるはずだ。

2012.5.5 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 ロッシ
プロフィール 鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援している大学生。今シーズンはプレミアリーグを中心に観ていく予定です。当コラムに関する、感想、意見等がありましたら、下記のツイッターアカウントにどしどしお寄せ下さい。
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