プレミアリーグも終盤戦を迎え、優勝争いが白熱の様相を呈してきた。

トップを走るのは、昨年の王者マンチェスター・ユナイテッド。王者らしい「したたかさ」を見せ付けている"赤い悪魔"は、同じ街のライバルであるマンチェスター・シティと熾烈なデットヒートを繰り広げている。(このコラムを書いている4月27日現在、両チームの勝ち点差は3)

首位を行くユナイテッドを支えているのが、ポール・スコールズ、ライアン・ギグス、リオ・ファーディナンド、パク・チソンといった経験豊富なベテランたちだ。伸び盛りの若手たちが多数在籍するユナイテッドにおいて、勝負の酸いも甘いも知る彼らの存在はとても大きいものであると言える。今回は、今冬に現役復帰を果たし、流石のプレーでチームを引っ張るスコールズにスポットライトを当てていきたい。

・若手2人が怪我に祟られ・・・

今シーズン開幕当初のユナイテッドの注目点は「引退したスコールズの穴をどう埋めるか」であった。

名将アレックス・ファーガソンがこの難題にどのような解決策を示すのか注目が集まったが、ファーガソンは若手にその穴を埋めさせるという決断を下す。その若手とは、2007年の入団当初から期待を掛けられてきたアンデルソンとウィガンでの武者修行を終えて逞しく成長したトム・クレヴァリーの2人であった。

開幕戦から中盤センターに固定された両者は躍動感溢れるプレーで攻守両面に貢献。荒削りながらも、可能性を感じさせるエネルギッシュなパフォーマンスを披露する2人の姿はスコールズの穴を微塵も感じさせないものであった。

しかし、両者とも怪我に祟られてしまったことで、塞いだかに見えたスコールズの穴がまたしても姿を現し始める。その結果、ファーガソンは本来フォワードの位置でプレーしているチームの柱ウェイン・ルーニーをセントラル・ミッドフィルダーとして起用するなど(ルーニーは持ち前のフットボールセンスで難なくこなしていたが)、厳しい用兵を強いられた。また、ピッチを縦横無尽に動き回り、ダイナミズムをもたらすダレン・フレッチャーが慢性的な炎症性腸疾患のため長期離脱したことも事態に拍車を掛けてしまった。

この難局でファーガソンが打った一手は私たちを驚かせるのに十分のものだった。

それは、昨夏に引退したスコールズの現役復帰である。

・役者が違ったスコールズ

スコールズは引退後、リザーブチームのコーチとしてチームに留まっていた。彼はファーガソンと相談を重ね、2012年1月8日に行われたFAカップ3回戦対マンチェスター・シティ戦で電撃的な復帰を果たす。メディア、サポーターだけでなく、チームメイトですら知らなかったビックサプライズだったが、この英断は間違いなくチームに落ち着きをもたらした。背番号こそ慣れ親しんだ「18」ではなく「22」だったが、ピッチでのクオリティーの高さは現役時と全く変わらないものだったのだ。

ゲームをコントロールすることができるスコールズが中盤に君臨したことで、ボールが彼のところでしっかり収まり、速攻だけでなく、遅攻というオプションを手に入れることに成功。ユナイテッドには勢いのある若武者が多く、全体的に前へと急ぎ過ぎるきらいがあったが、スコールズの加入後は攻守のバランスが良くなった印象を受けた。このことは、スコールズが復帰した第21節からのリーグ戦15試合でチームが12勝2分1敗という圧倒的な成績を収めていることが証明している。(ちなみにその1敗はスコールズが欠場した第33節のウィガン戦であった)

また、戦術眼、状況判断に優れ、視野が抜群に広いスコールズは味方が相手ディフェンダーのマークを外れ、フリーになった瞬間を見逃さない。彼の右足から放たれる正確なロングパス、機を見たサイドチェンジによってチームの攻撃は単調なものとはならず、バリエーション豊かな攻撃を繰り出すことができるのだ。

更に、スコールズの特徴である、「前線への飛び出しとミドルシュート」も冴えを見せた。知らず知らずの間にペナルティーエリアの周辺に顔を出し、相手デイフェンダーを混乱に陥れるプレーは「流石」としか言いようのないものであった。

そして、この活躍ぶりには、スコールズの現役復帰を望んでいたファーガソンも賛辞の言葉を送っている。

「ポールの復帰が我々にとって分岐点になった。彼が今見せているパフォーマンスは、以前と全く変わらない」

「彼は落ち着きをもたらし、試合のテンポをコントロールしてくれる。(昨シーズン限りでの引退という)間違いを犯した後、彼も安心してプレーしていると思う。復帰し、ファーストチームでプレーする喜びをかみしめているだろう」

「チャンスを生かした。昨シーズンよりも状態は良いかもしれないね。引退を決めていたことが影響を及ぼしていたかもしれない。少し休みがあったことが助けになった可能性もある。30代になって戻って来るのは難しいものだが、彼の場合は若返りにつながったようだね」

・大一番であるマンチェスター・ダービーの鍵を握るスコールズ

プレミアリーグの覇権の行方は事実上マンチェスターを本拠地とする2チームに絞り込まれた。そして、この両チームは4月30日にマンチェスター・シティの本拠地であるエティハド・スタジアムで激突する。ユナイテッドは、このダービーに敗れてしまうと、得失点差の関係で2位に転落する可能戦が高い。(両チームの得失点差は前節終了時点で、ユナイテッドがシティより6点下回っている。)そのため、このダービーを制した方がプレミアを制すると言っても過言ではない大一番なのだ。

ユナイテッドのサポーターにとって2011年10月23日に行われた今シーズン1回目のマンチェスター・ダービーは思い出したくもない惨劇だろう。この試合でユナイテッドはシティ相手に1-6という屈辱的なスコアで敗れ去っているからだ。(筆者自身、ユナイテッドが6失点もする試合を観たことがなかっただけに、大変衝撃を受けた一戦であった)

しかし、今回のマンチェスター・ダービーは優勝が懸かった天王山である。展開としてはロースコアの接戦になることが予想されるが、筆者はこの一戦の鍵をスコールズが握っていると考える。

前述したようにスコールズはチームに落ち着きをもたらすことのできる選手だ。こういった大一番で最も頼りになるのは修羅場をくぐり抜けてきた選手しかいない。そして、そういった選手の有無が勝負の明暗を分けるのである。(シティにはスコールズほど経験豊富な選手はいない)

普段ユナイテッドの試合を観ない人、または、サッカーに余り関心が無い人がもしこの試合を観戦するのであれば、スコールズの一挙手一投足に注目していただきたい。彼がどう動いているかによって、試合の展開、流れを知ることができるからだ。筆者自身も背番号「22」の円熟味溢れるプレーに特大の注目をしていきたい。

2012.4.27 ロッシ

※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。


筆者名 ロッシ
プロフィール 鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援している大学生。今シーズンはプレミアリーグを中心に観ていく予定です。当コラムに関する、感想、意見等がありましたら、下記のツイッターアカウントにどしどしお寄せ下さい。
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