今回は3月17日に埼玉スタジアム2002で行われたJ1第2節浦和レッズ×柏レイソルの一戦を振り返っていきたい。
・可能性を感じさせた浦和レッズ
新監督にサンフレッチェ広島を6シーズン率いたミハイロ・ペトロヴィッチ氏を迎えた浦和レッズ。新監督の下、屈辱的だった昨シーズンを忘却し、捲土重来を期したいところだが、柏レイソルとの試合を見る限り、その可能性は高いと感じることができた。
ペトロヴィッチ新監督は攻撃的なサッカーを信条とする監督だ。最終ラインから丁寧にパスをつなぎ、中央でのコンビネーションを活かした突破を好む。浦和レッズには原口元気、柏木陽介、山田直輝、梅崎司、田中達也といったテクニック、ドリブルに長けた選手たちが多く在籍しているだけに、ペトロヴィッチの戦術が浸透すれば、しっかりと上位に入ってくるチームになることは開幕前から予想できることであった。つまり、浦和レッズの選手たちにとって、ペトロヴィッチの教えをピッチの上で忠実に再現することが重要なファクターであったのだが、この試合では新指揮官の特徴がしっかりと発揮されていた。
上図がこの試合での浦和レッズの基本フォーメーションであるが、攻撃時には以下のような形に変化する。
ダブルボランチの一角を担う阿部が最終ラインに入り、ウイングバックの位置にいた平川、梅崎が高い位置へ。この「可変DFライン」こそが、ペドロヴィッチの戦術の肝である。
そして、この戦術のメリットを最大限に享受したのが阿部である。この試合では、パスセンスに優れ、インテリジェントなプレーヤーである阿部がボールを散らすことで、チームの攻撃が活性化していたのだが、その阿部がボランチの位置から自由に動き回ることで、相手FWのファーストプレスを無効化することができていた。実際、最終ラインとボランチを行き来し、絶妙なポジショニングを取る阿部に対して、プレスを掛けるべきリカルド・ロボは戸惑いを見せており、このことが前半の45分で浦和レッズが柏レイソルを圧倒的に押し込んだ要因であることは間違いない。また、阿部は円熟味あふれるプレーで相手チームの絶対的な軸であるレアンドロ・ドミンゲスを封じることに成功するなど、攻守両面で抜群に効いていた。今シーズンからキャプテンを務めるこの男が新生レッズのキーマンとなりそうだ。
また、積極的な攻撃参加を何度も披露した槙野はこの試合で輝いた選手だろう。「DFW」とも呼ばれるほど、積極的な攻撃参加が持ち味の槙野はサンフレッチェ広島時代にペトロヴィッチの下でプレーしていただけに、この戦術を知り尽くしている。出場機会に恵まれなかったケルン(ドイツ)時代のうっ憤を晴らすような気迫あふれるプレーは観る者に強烈なインパクトを残したのではないだろうか。
そして、槙野と同じくペトロヴィッチの下でプレーした経験を持つ柏木もこの試合で輝きを放った。浦和レッズに移籍後はボランチの位置で起用されることの多かった柏木だが、この試合ではサンフレッチェ広島時代にブレイクした時と同じ2シャドーの位置でプレー。相棒の原口、前線で起点となったデスポトヴィッチとともに、柏レイソル守備陣を混乱させていた。この二人はペトロヴィッチの戦術を一番理解している選手であるだけに、今後のレッズを支える選手となるだろう。
・「したたかさ」を発揮できなかった柏レイソル
Jリーグ開幕前に行われた「FUJI XEROX SUPER CUP 2012」ではFC東京に試合のペースを握られながらも、先制点を取ることによって試合のリズムを徐々に自分たちのものとし、見事2-1で勝利することに成功した柏レイソルであったが、この試合で見せたJ1王者らしい「したたかさ」を浦和レッズ戦では披露することはできなかった。
前半はそのFC東京戦と同じく浦和レッズがボールを支配し、押し込まれる嫌な展開。だが、FC東京戦との決定的な違いは先制点を敵に許したことである。ジョルジ・ワグネルのミスからデスポトヴィッチに決められた前半36分のシーンはまさに「らしくない」ものであったと言えるだろう。しかし、後半の立ち上がりにリズムを掴み、セットプレーから何度もチャンスを作ったプレーぶりで「流石は昨シーズンのJリーグ王者」と感じさせてくれたのも事実。
開幕戦(横浜F・マリノスと3-3のドロー)に続いて勝利を手にすることはできなかったが、チームの基盤はしっかりとしているだけに、心配することは無いだろう。
・浦和レッズの課題
最後に、この試合から見えた浦和レッズの「課題」に触れておきたい。
前半はしっかりと最終ラインからボールをつなぎ、ピッチを広く使った攻撃で完全に試合のペースを握っていた。前半の戦いぶりには筆者も思わずTV画面の前で拍手を送ってしまったが、後半は前半の戦いぶりが影を潜めてしまった。
確かに、対戦相手が試合巧者の柏レイソルであったことが影響したのかもしれないが、それにしても前半との落差が激しかった印象だ。「自分たちの時間帯」と「相手の時間帯」の落差をいかに最小限にとどめることができるかどうか。この課題を克服した暁には、新たな黄金時代を迎えることができると言っても過言では無い。筆者にそう思わせるほど、前半のプレーぶりは完璧であった。これからの新生浦和レッズには大いに期待して良さそうだ。
2012.3.17 ロッシ
※選手表記、チーム表記はQoly.jpのデータベースに準拠しています。
筆者名 | ロッシ |
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プロフィール | 鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援している大学生。今シーズンはプレミアリーグを中心に観ていく予定です。当コラムに関する、感想、意見等がありましたら、下記のツイッターアカウントにどしどしお寄せ下さい。 |
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