むやみやたらに若い選手を持ち上げることはしたくない。サッカー選手の成長曲線はまちまちで、たまたま20代前半でピークを迎えた選手にスポットライトが当たっただけのことも多いからだ。

それでもジャック・ウィルシャーは、私を含む見る者に期待感を抱かせずにはいられないようだ。先日のCLバルセロナ戦でのプレーは、今すぐイングランド代表のスタメンを張ってもおかしくない、むしろ衰えたランパードやジェラードに替わり、中軸をつとめてしかるべきと言えるほどの説得力を持っていた。


4-2-3-1の「2」の左ボランチで先発したウィルシャーは、ディフェンスラインからパスを引き出し、左右に振り分けることでアーセナルの攻撃のリズムを作り出していた。特筆すべきはスペースのないところでの巧みな動きとボール捌きだ。バルセロナは前線から激しいプレッシャーをかけ、その圧力をもとに全体のラインを高く保つことでかの美しいサッカーの基礎としている。ウィルシャーは巧みにそのプレスをかいくぐり、サイドのナスリとウォルコットにパスを通し、バルサの守備のリズムを崩していった。彼が位置していたのが守備をさぼりがちなメッシのいる右サイド(アーセナルの左サイド)寄りだったとはいえ、ボランチに必要な能力をウィルシャーがここまで高レベルに備えているとは驚きだった。イングランド人のMFでは最高レベルと言ってもいいだろう。

事実、この試合でのウィルシャーの組み立て能力は相手のチャビと比べてもそん色ないほどだった。またウィルシャーはイングランドの伝統たる「ボックス・トゥ・ボックス」MF(※両サイドのペナルティエリアを往復するような、攻守両面に貢献できるMF)としての面もあり、パスを捌いたあとの動き出しの献身さ、ドリブルでの打開力を備えている。


2月9日のデンマーク戦ではランパードの隣でやや守備的な役割を担当したウィルシャーだが、線が細くタックル技術にも欠ける彼には、この役割は不適切だろう。中盤の底で睨みを利かせつつ、ピンチを未然に防ぐ勘の良さを持っているMF(とはいえ、これは現在のイングランドにもっとも欠けている選手なのだが)の隣に置いて、攻撃を司る役割を与えるべきだろう。

ここ10年イングランドに出てきた攻撃的MF――キーロン・ダイヤー、デイヴィッド・ダン、ジャーメイン・ジーナスはいずれも国際レベルでは期待外れだった。しかし、ウィルシャーははっきり言って格が違う選手だ。数年後、セスクのように成長し、イングランド代表の中心となっていることだろう。

(筆:Steve Sillywalk)

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