ル・グエン監督はリヨン時代にチームに浸透させていた、「素早いパス交換とダイレクト攻撃」、「積極的なオーバーラップによる厚みのある攻撃」をカメルーン代表チームにも用いようとしているが、現状チームに舵取り役が不足していることもあり、速攻、遅攻の選択が曖昧で、選手個々が自己判断で試合に入っているような印象は否めない。
4-3-3のフォーメーションを敷いている以上、アンカーに配置されているアレクサンドル・ソングがチームをコントロールする必要があるが、縦パスやチャレンジパスの意識は高いもののプレー精度自体に波があり、味方からボールを受け取ろうとする意識やポジショニング面に大きな問題を抱えている。
特徴的なシーンがこれである。
A・ソング(6番)はマーカーを避けるスマルカメントの能力が低く、「相手が自分から離れてくれることを待ってようやくボールを受け取れた」という状況がよく見られる。この映像では、バックラインからアンカーを経由して攻撃を行おうと試みるも、A・ソングの近くにマーカーがいることでDFはパスが出せず、攻撃が停滞している状況が伺える。
無論、A・ソングの所が使えなかったとしても、他の選手がフォローに行けば済む話であるが、そもそも彼の代わりにボールの引き出し役に回ろうと考えられる選手が少なく、例えボールを受け取ったとしても効果的なパスを出すことは少ない。しびれを切らしたエマナが低い位置まで下がってくることもあるが、この状況はカメルーンサイドにとっては最も悪い流れに陥っていると言える。
つまり、「攻撃のスタートはA・ソングから」。彼にボールが入ることで、初めて攻撃がスタートすると言っても過言ではない。
A・ソングが起点役となれば、そこからインサイドハーフの2人と素早いパス交換、サイドバックへスムーズにボールが流れるだけでなく、3トップへの楔も入るようになり、個人技と周囲のオーバーラップがリンクした、カメルーン代表最大の武器である厚みのある攻撃が始まる。つまり、裏を返せば、彼を機能不全に陥らせることができれば、カメルーンの攻撃面での恐怖は半減すると言える。
また上記の試合では、アンカーへのパスを諦めたR・ソングがロングボールという選択肢を取っているが、それ以外にも自ら持ち上がって打開しようとしたりするなど、手詰まり感が漂うシーンが多く見られた。
しかし、仮に高い位置からの組織的プレスを狙う場合は、奪取エリアをやや下げて、A・ソングから出たパスを取り所として考えたほうがボール奪取率は高くなるかもしれない。と言うのも、繋ぐことを切り上げてロングボールを多用された場合、必然的に空中戦勝負になるため、日本代表側として不利な状況に生んでしまうリスクが発生するからだ。3トップの中央にウェボが起用された場合は、空中戦で優位に立てる可能性もあるが、ミスマッチを狙われ、長身のイドリスやクエマハなどが起用されると、ハイボール時の勝率は著しく低下する恐れがある。
日本代表としては、守備方法を明確にした上で、起用する選手の選定、ハイボールのこぼれ球を拾う動きの向上化が必要かもしれない。