アジアのフットボールについてイギリス紙に寄稿しているジャーナリストであるJohn Duerdenは、今回の日本対オーストラリアについてのコラムをイギリスのガーディアン紙で取り上げた。そこで彼は、「本田圭佑は、香川真司を左サイドでも輝かせることで、ユルゲン・クロップの涙を止める役割を担った」と独特の表現を使って本田圭佑を称賛した。これはユルゲン・クロップが「世界最高の選手の一人なのにマンチェスター・ユナイテッドでは20分しかプレーを見られない。しかも左ウイングで起用されている。涙が出るよ」と語ったことに絡めたコメントである。

実際オーストラリアの中盤を何度も破った香川と本田の連携は確かに素晴らしかった。特に、今まではそれほど頻繁に見られなかった2人がスイッチしていくようなプレーによって連携しながら中盤のマークを外してチャンスを作り出していった。相手にとって最も危険なゾーンで、タメを作りながら周囲のプレイヤーが飛び出してくる場面を作り出せる本田の存在は、チームにおいて一際大きな存在感を放っていた。

しかし、今回本コラムでとりあげたいのは守備の部分である。ザッケローニがどのように思考し、オーストラリアの攻撃を抑え込もうとしていったのか。そういった部分を考察していくことによって、このイタリア人指揮官へと迫っていけたら面白いのではないだろうか。

ザッケローニが、今回取り組んだのはロングボール対策に他ならない。「オーストラリアといえばロングボール」というイメージ通り、彼らの最大の武器であるロングボールを封じこむことによって相手の攻撃をコントロールしてしまう安全策を選んだのである。実際、ラインを高く保つことによって最も危険なケーヒルを抑え込み、身長が低い長友サイドにケーヒルが流れていくパターンも完全に予期していたかのように、サイドに流れていく場面では今野がマンツーマンで封じこむ役割を担った。実際、ロングボールでは大きなピンチを作られる場面は予想より少なかったということが出来る。John Duerdenも「セットプレーなどで危険な場面を作り出したのはオーストラリアよりも日本だったことは予想外だった」、と述べている。

しかし、ここで大きな誤算となったのは、オーストラリアというチームが封じられてしまったロングボールを容易く捨ててしまったことだった。彼らは長いロングボールが通じないと見ると、一気にカウンター狙いへと切り替えてアウェイの地で日本の喉元に食らいつこうとしたのである。

彼らが使ったのはシンプルな手だった。まずは、日本がボランチ1枚やサイドバックを積極的に攻撃参加してくるように仕向けるようにリトリートする。そしてケーヒルとホルマンが低い位置に落ちていくようなプレーによって2CBを引き付け、一気にサイドからWG2枚を裏のスペースに走らせることで簡単に決定機を作り出す。

実際、恐らくオーストラリアにとって「隠していた手札」であったこのカウンターによって何度も日本はピンチな場面を作り出される。特に遠藤とクルーズが競り合いながら振り切られてしまった場面などは、大きな決定機であったことは間違いない。

ここでザッケローニはこう考えたのではないか。「CBが2枚だからこそ、2トップに引き出されて後ろに余る選手がいなくなったことでピンチを招いてしまった。ロングボール対策が上手くいっている今だからこそ、CBを1枚加えることによってカウンターに対策しつつサイドの選手を押し上げていこう」

様々な意見があるようだが、個人的に言わせてもらえばこの選択に批判の余地はない。4バックであっても今野と吉田に広い範囲を守らせるような「3バック的な」守り方で成功していたこの試合において、そのまま「3バック」にすることはそこまで不思議はなかった。「守りに入った気持ちが失点を招いた」という意見もあるようだが、結果論に近いものがあるのではないだろうか。

今回のオーストラリア戦で、「最も今までと異なっていたこと」はロングボールを一試合通じてしっかりと抑え込んでしまったことである。もちろんオーストラリアの前線に君臨するケーヒルにかつてほどの圧倒的な存在感はない。しかし、キッチリと90分間パワフルな放り込みを防ぎ続け、オーストラリアの切り札を引き出していった守備陣の成長は今後世界で闘う上で最も評価されるべき部分であるだろう。もちろん改善点は多くあるが、選手たちも監督も、この試合に関しては結果を取るためにしっかりと個々の仕事をこなしていった。恐らく、ここからは「格上」と闘う準備を進めていくことになる。大きな期待を持って、イタリア人指揮官の仕事を見守っていきたい。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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